日本薬理学雑誌
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脳薄切切片標本の誘発電位に及ぼす低グルコース負荷の影響とこれに対するSuloctidilの効果
西 広吉堀 信顯勝田 信夫
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1983 年 82 巻 5 号 p. 321-333

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抄録

人工灌流液中に保生した脳切片標本の誘発電位を指標として,suloctidilおよびdihydro-ergotoxinの低糖負荷時の脳機能保護作用につき検討した.1)モルモットの前梨状葉薄切切片標本を用い,外側嗅索の二連刺激に応答する誘発電位を皮質表面から記録しながら,正常時の約1/3(3mM)のグルコースを含むKrebs-Ringer液で10分間灌流すると,第1刺激に対する誘発電位振幅は5~7分後から著明にかつ可逆的に減少し,安定な実験再現性が得られた.2)本実験系で得られる第2刺激に対する電位振幅は常に第1刺激に対するそれより大きく,明らかなpostactivation potentiationを示したが,その程度は低糖負荷により著明に促進された.3)脳切片を10-7~10-6g/mlのsuloctidilを含む低糖Krcbs-Ringer液で灌流すると,低糖負荷による誘発電位の減少は明らかに濃度依存性に抑制され,特に10-6g/mKによる抑制率は負荷開始10分後で統計的にも有意であり,10-7g/mlの抑制効果は特に負荷終了後の電位回復期に顕著であった.4)試用した各濃度のsuloctidi1はすべて低糖負荷によるpostactivation potentiationの促進を著明に軽減または殆んど消失させた.5)正常Krebs-Ringer液に溶解したsuloctidilは10-5g/ml以下の濃度では誘発電位に何ら影響を与えなかった.6)dihydroergotoxinは3×10-7g/ml濃度では低糖負荷による電位振幅を軽減しなかったが,3×10-6g/mlの濃度では低糖負荷による電位振幅の減少を明らかに軽減し,その効果はsuloctidil 10-6g/mlのそれにおおむね匹敵した.本薬物もsuloctidilと同様に低糖負荷によるpostactivation potentiationの促進を軽減した.7)このようなsuloctidilの低糖負荷時の誘発電位の減少に及ぼす防止効果の機序について脳エネルギー代謝と高エネルギーリン酸化合物生成との関連につき考察を加えた.

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