日本薬理学雑誌
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ラット胸部大動脈のNorepinephrineならびにCaCl2収縮に及ぼすSuloctidilの作用
石橋 昭花形 理香堀井 大治郎久山 哲廣高柳 一成
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1983 年 82 巻 5 号 p. 361-373

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抄録

ラット胸部大動脈条片を用いてsuloctidilの血管弛緩作用機序を検討した.suloctidil 10μMおよびverapamil 0.1μMはnorepinephrine(NE)収縮を非競合的に抑制し,pD'2値はそれぞれ4.61±0.41および6.16±0.22であった.一方,prazosin 1nMのNE収縮抑制作用は競合的で,pA2値は9.84±0.15であった.脱分極させた大動脈のCaCl2収縮はsuloctidil 0.1および1.0μMの前処置によって競合的に抑制され,そのpA2値は5.96±0.26であった.しかしsuloctidil10μMではCaCl2収縮を非競合的に抑制し,そのpD'2値は5.01±0.14であった。対照薬として用いたpapaverine,verapamilおよびcinnarizineのCaCl2収縮に対するpA2値はそれぞれ5.23±0.10,7.53±0.09および7.11±0.11であった.CaCl2除去液中でNE1μMを適用すると,血管条片の収縮は0.4分後に最高(23.8±2.2%)となり,5分後にはほぼ静止張力近く(4.1±0.8%)にまで減衰する一過性の反応が観察された.この収縮反応は細胞内貯蔵部位からのCa2+遊離を反映すると考えられるが,suloctidil10μMおよびverapamil0.1μMの前処置によっては影響がなく,prazosin 1nMの前処置によって有意に抑制された.続いてCaCl2除去液中でNE適用5分後にCaCl2 2.5または10mMを適用すると,NEで活性化されたCa2+流入を反映した収縮反応が観察され,CaCl2 2.5および10mM適用後1時間における収縮反応は,それぞれ103.1±4.2%および133.8±10.3%であった。CaCl2適用後の張力発生に対し,suloctidil 10μMは有意な抑制作用を示し,またverapamil 0.1μMおよびprazosin 1nMは抑制または抑制傾向を示した.脱分極大動脈への45CaCl2の取り込みは,suloctidil 1.0μMの存在下ではverapamil 0.1μMの場合と同様にCaCl2負荷5および10分後では抑制された.一方suloctidilは10μMにおいてもラット大動脈のphoshodiesterase活性には影響はなく,papaverine 1.0μと対照的であった.以上の結果から,suloctidilおよびverapamilはNEによって活性化される貯蔵部位からのCa2+遊離には関与せず,NEによって活性化される細胞外からのCa2+流入および脱分極によって活性化されるCa2+流入を抑制することによって血管平滑筋の弛緩作用を発現すると推察された.

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