1986 年 87 巻 4 号 p. 427-434
ICR系マウスとスナネズミを用い,実験的な虚血性脳障害に対するnicergolineの作用をdihydroergotoxine(DHE)と比較検討した.両側総頸動脈(BCA)永久結紮によるICR系マウスの脳虚血モデルにおいて,nicergoline(16 mg/kg, i.p.)はDHEと同程度に脳虚血後の累積死亡率を有意に低下させた.BCA閉塞(30分間)―再開通によるスナネズミの脳虚血モデルにおいてもnicergoline(32 mg/kg, i.p.)はDHEと同程度に血行再開通後から虚血性痙れん発作発現までの時間を有意に延長させた,また,ICR系マウス脳虚血モデルで著明な脳エネルギー代謝障害が生じていることを確めた.このBCA結紮2分後の虚血脳においてnicergoline(16 mg/kg, i.p.)は増加したlactate量と上昇したL/P比を有意に低下させると共に,減少したcreatine-PおよびATP量を回復させる傾向を示した.さらに,ラット脳ホモゲネートを用いたin vitro系でnicergolineはα-tocopherolおよびDHEよりも2.5~3.5倍強い過酸化脂質生成抑制作用(IC50: 31 μM)を示した.これらの成績から,nicergolineは虚血性脳障害に対して保護作用を有し,その作用発現には脳エネルギー代謝改善作用に加え,過酸化脂質生成抑制作用が一部関与しているものと考えられた.