1989 年 94 巻 1 号 p. 73-80
ラットの両側総頸動脈結紮及び低血圧による不完全脳虚血モデル(前脳虚血,15分間)を用い,以下の項目について isoflurane(ISOF)と笑気の影響を比較した.実験Iでは,虚血時及び再灌流時の水素クリアランス法による局所脳血流量(rCBF,2ヵ所)と皮質脳波(ECoG)を測定した.実験IIでは,再灌流60分時の 14C-iodoantipyrine 法による局所脳血流量(LCBF)と 14C-deoxyglucose 法によるブドウ糖代謝率(LCGU)を測定した(局所14ヵ所).実験Iでは,笑気群の rCBF は虚血前に比べ,虚血時大脳皮質,海馬で10%以下となり,再灌流後10分で約170%に増加し,60分では50%に減少した.ECoG は,虚血時平坦となり再灌流後21分で再発現した.ISOF 群の rCBF は虚血時25%に低下したが,再灌流後は虚血前と比べ差がなかった.ECoGは,虚血時平坦となり再灌流後14分で再発現した.実験IIでは,再灌流60分時,笑気群の LCBF は,虚血前に比べ前脳のすべての部位で40~50%,他の部位で50~80%と低値であった.LCGUは,虚血前に比べ前脳のすべての部位で30~50%,他の部位で20~50%と低値であった.一方再灌流60分時,ISOF 群の LCBF は,虚血前に比べ前脳のみ60~80%と低値であったが,他の部位では差はなかった.LCGUは,虚血前に比べ視床及び手綱核のみ80%と低値であったが,他の部位では差はなかった.以上から,ISOF は笑気に比べ,虚血後の反応性充血,低灌流・代謝及び脳電気活動の抑制が軽度であった.これらの結果は,不完全脳虚血に対する ISOF の脳保護作用を示唆する.