2020 年 32 巻 3 号 p. 121-130
過去において顎関節症における咀嚼筋痛障害は,筋の過負荷に起因する損傷と疲労物質の蓄積により発症する非炎症性筋痛と捉えられていた。しかし2000年前後を境にして,不動や安静による組織の線維化に関する研究が報告されるようになり,筋に隣接する結合組織などの間質の組織変化によって疼痛と機能障害が惹起されるという考え方が説明されるようになった。従来の治療法は,筋の損傷と疲労を癒すための安静を基本としていたが,現在,多くの臨床研究者から支持されている治療法は,安静の対極にある運動が第一選択となっている。本稿はDC/TMD(Diagnostic Criteria for Temporomandibular Disorders)で挙げられている,最も頻繁にみられるTMDにおける咀嚼筋痛障害として局所筋痛と筋・筋膜痛についてその病態生理と治療法に関する知見を紹介する。