日本顎関節学会雑誌
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総説
顎関節円板転位とその関連因子
谷本 幸太郎
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2024 年 36 巻 2 号 p. 61-67

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抄録

顎関節円板障害は日常臨床で遭遇する機会が多い。実際,当科初診患者の約11%に顎関節MRIで関節円板の前方転位や変形が認められ,復位性あるいは非復位性顎関節円板障害と診断される。臨床症状が関節雑音のみで,画像検査で下顎頭など顎関節の硬組織に著明な異常所見が認められない場合は,顎関節症に対し特段の治療を行わず,経過観察となることが多い。一方,顎関節やこれに関連した領域に疼痛や不定愁訴が認められる場合,また線維性癒着やクローズドロックを生じている場合には,顎関節症の治療を行い,症状の緩解が図られる。顎関節症状に対しては,保存的かつ可逆的な科学的根拠に基づいた治療法で対応することが強く推奨されている。顎関節円板転位が生じて比較的早期に対応した際,結果的に円板整位が達成されることがある。同様の保存的治療を行っても整位されない場合もあることから,決して意図的に行えるものではなく,たとえ一時的に整位がなされても再発の可能性は十分にある。関節円板の位置異常や変形のみられる関節は,滑液成分や関節構成組織の器質的変化,これに伴う潤滑機能や緩衝機能の低下を生じている可能性があり,単なる形態上の問題と捉えるべきではない。また,顎関節円板障害により惹起される臨床症状の多くは長期的には緩解に向かうものの,途中の経過についてはさまざまである。したがって,顎運動障害や不快症状の原因となる関節円板の位置異常や形態異常の詳細な様相や予後について理解を深め,より精度の高い診断ができることが望ましい。そこで,円板転位に関連する顎関節組織内の変化について,基礎的研究結果に基づいて考察することとした。

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© 2024 一般社団法人 日本顎関節学会
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