2024 年 10 巻 1 号 p. 1-10
1956年のスエズ危機などを契機として欧州諸国は石油備蓄を積み増していたが,日本は1960年代後半から準備を開始し,1973年の第1次石油危機時には約60日分の民間石油備蓄を有していた.当時,本邦の1次エネルギーに占める石油比率は7割を超えていたことから,石油備蓄の増強は合理的な選択であり,その後の中東危機においても充分な備蓄があったため混乱が起きなかったとされている.現在では石油比率が4割を切る一方でLNG需要が大きく増加しているが,備蓄を有するのは石油類のみである.仮にLNG供給が停止した場合,在庫は数週間分しか存在せず有効な代替手段も有していない.昨今の日本近海における海上輸送路への脅威拡大などを踏まえると,安全保障上の観点からも国家LNG備蓄の導入が急務である.