本稿では,人間の学としての言語文化教育学の歴史的な展開として,学習者主体からことばの市民への教育理念の変容を論じた。いわゆるコミュニケーション能力育成が目的化されてきた1970年代から80年代以降,90年代後半から打ち出された言語文化教育の思想は,これまでの言語教育の範疇を超え,ことばと文化の教育を人間科学として捉えようとする,言語教育上のポリティクスだったといえよう。1995年の「学習者主体」提案から20年,教育技術方法主義と文化本質主義に陥った日本語教育を捉えなおすための,自己・他者・社会をつなぐ理論的な枠組みとして,言語能力向上の先に存在する,人間形成の課題としての「ことばの市民」という教育概念の意味とその位置づけを提案し,その社会変革理念がどのように具体的な活動実践と結びついていくかという課題を,言語文化教育学のポリティクスとその実践の方向性として示した。