2018 年 16 巻 p. 115-135
これまで海外初中等教育機関に関する研究は,日本語教師がどのように教科や教職を選択したかについての分析が不十分であった。本稿はサハリン州(ロシア)の初中等教育機関に勤務する 2名の日本語教師の「天職観」に至る過程を分析している。従来における教職アイデンティティ研究は,主に「自己概念」「自尊感情」を明らかにしたものであるが,本研究においては「ゆらぎ」を統合する過程に重きを置いて分析している。分析に際しては複線径路等至性アプローチを用いることで,それぞれの教員がどのような「教職アイデンティティ」を辿ったかが描写されている。一連の分析から,海外における日本語教師は,国家政策の影響を受けながらも,彼 /女らが政策によって受動的に影響を受けているだけの存在ではないことが明らかになった。さらに,海外における日本語教育は,今後どのような言語政策が求められているかが併せて提示されている。