本稿は,教育現場に浸透しているとされる「ネイティブスピーカー志向」の第二言語習得が抱える問題を背景に,「非ネイティブスピーカー志向」の第二言語習得の実態を探索的に解明することを目的とする。その一事例として,あくまで非ネイティブスピーカーとして適切な話し手であろうとする態度を一貫して保持してきた,ある日本人英語学習者Aの英語習得に関するライフストーリーを少年期まで遡り,その学習環境や志向がどのように影響し合って学習がなされたかを分析した。また学習の過程で,Aが英語でどのようなキャラクタをどのようにして獲得したかについても検討した。そして,それらを総合的に考察することにより,Aによる非ネイティブスピーカー志向の学習について以下の4つの特徴を記述した。(1) 第二言語でのキャラクタを意図的に設定して演出し,それを省察する。(2) 第二言語の文化に敬意を持ち,改まりと丁寧さを重視する。(3) 何語であるかに関わらず言葉を大切に,構造を正確に使用する。(4) 伝えたいメッセージを明確に持つ。