2021 年 19 巻 p. 197-219
本稿は,2010年に開講されたフル・オンデマンド講座「書くこと・考えること」について,メンターとして参加した筆者がその実践のありようを観察・分析したものである。本講座では,受講生自身がテーマを選びレポートを段階的に完成させる。担当教師は直接的な指導をせず,受講生は他の受講生やメンターとオンライン上で意見交換をした。本稿の調査協力者である受講生2名の成果物とインタビュー記録からは,メンターのスキャフォールディングとフル・オンデマンドによる思考と表現の循環をもとにして,学習者が自律的に思考と表現を更新していたことが観察された。このことから,ことばの学びを深化させるには,「正しさ」を目標にせず,他者との対話を通して思考と表現の循環を活性化していくことが,10年の時を経ても,またオンラインでも対面でも,ことばの学びの意味を考える上で重要であることが指摘できる。