2021 年 19 巻 p. 239-254
本研究の目的は,form - meaning - useの力動的関係をめぐる議論に「文脈に埋め込まれた身体」という視点を加えることにより,L2教育研究における「文脈における言語の意味」の射程を拡張することである。そのために,身体移動がタスク設定の鍵となる即興的L2スピーキング活動の会話分析(特にマルチモーダル分析)を行い,相互行為における言語表現と身体表現の調和や齟齬に焦点を当てた考察を行う。実際の相互行為におけるL2スピーキングは,抽象的な言語記号の操作に留まらない,身体感覚やイメージを含む全体的な活動である。分析の結果,身体や文脈と調和しない言葉の非真正性は学習者たち自身にも即座に察知されることが分かった。対照的に,身体化された言葉とそれが埋め込まれた架空の文脈が同時に立ち現れるとき,パフォーマンスは演者と観客の双方に高揚感を与え,練習というより遊びの感覚が共有された。このような結果に基づき,本研究は,身体感覚と想像力という全ての学習者が豊富に持つ資源のより積極的な活用を提案する。