GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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A CASE OF SUBMUCOSAL HEMATOMAS IN THE DISTAL COLON DURING ANTICOAGULATION THERAPY WITH EDOXABAN
Keishi KOYAMAKohei FUNASAKA Dai YOSHIDANoriyuki HORIGUTIMasaaki OKUBOTomomitsu TAHARAMitsuo NAGASAKAYoshihito NAKAGAWATomoyuki SHIBATANaoki OHMIYA
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2019 Volume 61 Issue 11 Pages 2483-2490

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要旨

症例は80歳,男性,暗赤色便が出現し前医に入院した.慢性心房細動に対し内服していた抗凝固薬エドキサバンを中止後も血便が続くため,入院3日目に当院へ転院となった.緊急CSでは内腔に突出した粘膜下血腫により,スコープが通過できなかった.保存的治療にて血便は止まり,貧血の進行も認めなかった.第2病日より菌血症を来したため抗生剤治療を追加し,全身管理を行った.第9病日のCSでは血腫は完全に消失し,同部位に帯状の縦走潰瘍を認めた.以後狭窄症状を来すことなく治癒した.新規経口抗凝固薬が登場する中で稀な疾患である大腸粘膜下血腫を経験し,さらに大腸内視鏡に関連した菌血症を併発したため文献的考察を含め報告する.

Ⅰ 緒  言

エドキサバンは,血管内で内因系血液凝固に関与する血液凝固第X因子の活性化を選択的に直接阻害する新規経口抗凝固薬(DOAC)の一つで,非弁膜症性心房細動患者における血栓塞栓症(AF)および深部静脈血栓症の発症抑制(VTE)に適応がある.DOACはワルファリンと比べ脳出血など重篤な出血副作用は有意に少なく,また頻回なモニタリング,用量調整,食事制限など複雑な管理が不要なため,近年使用頻度が増加している.

ワルファリン,DOAC内服中の大腸粘膜下血腫はこれまで報告されているが,その中にエドキサバンはなく,さらに菌血症を合併した1例を経験したので報告する.

Ⅱ 症  例

症例:80歳,男性.

主訴:暗赤色便.

既往歴:慢性心房細動,高血圧症,慢性閉塞性肺疾患,糖尿病,脂質代謝異常症,高尿酸血症,便秘症.

家族歴:特記すべきことなし.

内服薬:エドキサバン60mg,シタグリプチン50mg,ミグリトール50mg,メトホルミン500mg,エパルレスタット50mg,アゼルニジピン16mg,テルミサルタン80mg,ヒドロクロロチアジド12.5mg,フロセミド20mg,アンブロキソール45mg,カルボシステイン500mg,アトルバスタチン10mg,フェブキソスタット10mg,ランソプラゾール15mg,クエン酸第一鉄50mg,酸化マグネシウム330mg.

現病歴:200X年7月3日暗赤色便が出現し前医に入院した.抗凝固薬エドキサバンの内服中止後も血便が続くため,緊急大腸内視鏡検査(CS)が施行され,S状結腸から下行結腸に巨大な粘膜下血腫を指摘された.腹部造影CTにて腸管内に造影剤漏出が疑われたため同年7月5日当院へ転院となった.

転院時現症:身長165cm,体重85.6kg,意識清明,BT 36.7℃,HR 80bpm,不整,BP 158/73mmHg,SPO2 94%(室内気).

眼瞼結膜:軽度貧血あり.

胸部:心音,呼吸音に明らかな異常なし.

腹部:平坦,軟,圧痛なし,腸蠕動音やや減弱.

四肢:下腿浮腫あり.

直腸診:腫瘤触れず,暗赤色便少量付着.

前医入院時腹部単純CT検査(Figure 1):下行結腸からS状結腸にかけて腸管内腔を占拠する腫瘤(わずかな高吸収域)を連続的に認め,出血で矛盾しない所見であった.

Figure 1 

前医入院時単純CT(水平断).

下行結腸からS状結腸に腸管内腔を占拠するわずかな高吸収域な腫瘤を認める(白矢印).

前医ダイナミック造影CT検査:早期動脈相,平衡相ともに,造影剤の腸管内漏出は認めなかった.

転院時臨床検査成績(Table 1):軽度の貧血あり,凝固系検査異常なし,炎症反応はごくわずか,腎障害なし.

Table 1 

臨床検査成績.

当院大腸内視鏡検査(Figure 2):S状結腸より暗赤色の粘膜模様を有する血腫が内腔に突出し,一部で境界がはっきりとした粘膜剝離像および剝離した表層上皮の凝集を認めた.下行結腸の途中で管腔内が閉塞しており,それより口側への内視鏡挿入を断念した.以上より粘膜下層から発生した大腸粘膜下血腫と診断した.

Figure 2 

第1病日 緊急大腸内視鏡検査.

a:S状結腸から下行結腸にかけて新鮮血を認める.

b:暗赤色の粘膜下血腫が管腔内に突出し一部で粘膜欠損(白矢印)を認める.

c:剝離し凝集した白い表層上皮(黄矢印)を認める.

入院後経過:持続的な活動性出血は認めなかったことから絶食,止血剤投与(カルバゾクロム100mg/day),補液による保存的治療を行うこととした.

CSで下行結腸の閉塞が疑われたため第2病日に単純CT検査を施行した.口側腸管の拡張など閉塞所見は認めなかったが,S状結腸から下行結腸周囲の脂肪織の濃度上昇と毛羽立ちを認めた(Figure 3).同日夜間より悪寒戦慄を伴う39.3度の発熱を認め,CS操作により惹起された敗血症を疑い,抗菌薬(メロペネム0.5g q12h)投与を開始した.後日,血液培養2セットよりClostridium perfringensが検出された.敗血症性ショックとなったが,大量補液,ノルアドレナリン投与による全身管理を行い,第9病日には状態が安定した(Figure 4).途中,第4,5病日に黒色便を少量認めたが貧血は進行しなかった.第9病日に前処置なしでCSを再度施行したところ,スコープは下行結腸を抵抗なく通過したため,横行結腸まで挿入し観察した(Figure 5).入院時に巨大な血腫を確認した下行結腸からS状結腸下行結腸移行部あたりの血腫は完全に消失していたが,同範囲に縦走する約1/3周性の広範な浅い帯状潰瘍を認めた.潰瘍底は一部薄い白苔が付着し,周囲粘膜から腸管短軸方向に走るひだが集まり,辺縁にわずかな隆起を認めた.これらの所見から血腫が脱落した部分が潰瘍化し,修復過程にあると考えた.第4,5病日の黒色便は血腫の脱落によるものが考えられた.第13病日より食事を開始し,第15病日にはエドキサバン60mg内服を再開,第19病日に前医へリハビリ目的に転院となった.再出血もなく第45病日に前医を退院した.

Figure 3 

第2病日 単純CT(冠状断).

腸閉塞の所見は認めない.S状結腸下行結腸移行部に壁外脂肪織の毛羽立ちを認める(白矢印).

Figure 4 

入院経過表(体温,WBC,CRP,主な薬剤).

Figure 5 

第9病日 大腸内視鏡検査.

下行結腸(a)からS状結腸(b)まで連続する約1/3周性の広範な浅い潰瘍を認める(白矢印;潰瘍最口側,黄矢印;潰瘍最肛門側).

Ⅲ 考  察

大腸粘膜下血腫は稀な疾患とされ,多くの内視鏡医が実際に経験したことはないと思われる.1977年の海外の報告で,大腸壁内血腫の発症率は消化管壁内血腫全体の4.4%(12/277例)との報告 1はあるが,本邦での正確な頻度は不明である.

そこで医学中央雑誌を用い「粘膜下血腫」「大腸」「原著論文」で過去25年間の検索を行い,自験例を含む20例の報告をTable 2にまとめた 2)~17.年齢は20代から80代まで幅広く認めるが,年齢中央値66歳で高齢者に多い.

Table 2 

本邦原著論文報告20例(自験例を含む).

病態としては外傷・CS操作など明確な発症機転があるものが7例と最多で,次いで基礎疾患に虚血性大腸炎に伴うものが5例であった.その他,アミロイドーシス,感染性腸炎,IgA血管炎などが基礎疾患として報告されており,大腸壁の脆弱性の関与が示唆される.病変部位はS状結腸が11例と最も多く,特にCS操作が原因のものでは全例がS状結腸で発症していた.抗血栓薬内服例はダビガトラン2例,ワルファリン+アスピリンの併用を1例に認めた.今回使用されていたエドキサバン内服の報告は自験例のみであった.

大腸粘膜下血腫の内視鏡所見は内部に血液が貯留した暗赤色調の粘膜下腫瘤の所見を呈し,有茎性から亜有茎性の報告が多い.治癒過程で血腫が剝離して潰瘍化するとされ,血腫の周在性によっては治癒過程で狭窄を生じる可能性もある.本症例はスコープの通過が当初困難であったことから周在性の大きい血腫の可能性も危惧されたが,腸閉塞は来さず,生じた潰瘍は1/3周程度で狭窄症状も来さなかった.第9病日に行った内視鏡では血腫が脱落し縦走する帯状潰瘍を呈していたことから,検査を行う時期によっては虚血性大腸炎との鑑別が必要となる.本症例は発症早期に内視鏡を行い血腫の存在が確認できており,また周辺粘膜にびらん,潰瘍など認めなかったことからも虚血性大腸炎の合併はなかったと考えている.ただし,過去に虚血性大腸炎に合併した大腸粘膜下血腫の症例報告 3),12),14もあることから,発症の一因に虚血性変化が関与した可能性は否定できない.しかし,虚血性大腸炎と大腸粘膜下血腫の頻度は大きく異なることから,抗血栓薬内服など追加因子があってはじめて起こるのかもしれない.今後,同様の症例が増えてこないか注視していく必要がある.

治療に関しては,補液,腸管安静など保存的加療により血腫が縮小し自然吸収を認めたという報告 3がある一方,血腫による腸管閉塞や止血困難な持続的出血から外科的切除を行った報告もある 12

本症例はエドキサバン内服中に発症していたため,抗血栓薬使用中の有無を文献で検索し9例中4例(内服不明例を除く)で内服されていた.そこで本症例に用いられていたエドキサバンの出血副作用について,薬剤安全性情報をもとに考察する.のべ約130,000例中,因果関係が否定できない出血事象は561例610件報告されていた.出血部位は消化管(169件),泌尿器(95件),呼吸器(89件),皮膚または皮下組織(70件)など消化管出血が最多となっていた.DOACはワルファリンと違って薬効のモニタリングが不要とされているが,ダビガトランで血中濃度をみた検討では,投与量が一定でも,血中濃度の個人差は約5倍あったとする報告がある 18.エドキサバンは体重60㎏以下では30mgに減量が必要であり,60㎏超でも腎機能(クレアチニンクリアランス30mL/min以上50mL/min以下)により30mgに減量が必要とされている.高齢者は生理機能の低下により血中濃度が上昇しやすく慎重な投与が求められている.

大腸内視鏡による菌血症については,潰瘍性大腸炎などの粘膜バリア障害やポリペクトミーなど粘膜損傷によりリスクが高まるとの報告がある 19.本症例は内視鏡観察時に剝離した粘膜および粘膜欠損が確認されており,また血腫による閉塞部位を越えようとしCO2送気ではあったものの操作時間が長くなり,腸管内圧が上昇したことが菌血症を惹起したと考えた.CS関連の菌血症自体が稀であるがE. coli,Bacteroidesが検出されたという報告がある 20),21.今回,血液培養から検出されたClostridium perfringensは別名をウエルシュ菌といい,食中毒を起こすことで知られるが,大腸穿孔に合併した報告がある 22.本症例では嘔吐,腹痛,下痢など食中毒症状はCS前に訴えておらず,大腸内視鏡操作に関連した菌血症と考えている.自験例のように表面に粘膜欠損を伴う大腸粘膜下血腫は,内視鏡検査により菌血症を合併しやすい環境にあり,検査後の発熱,腹痛の際は原疾患の増悪以外に菌血症にも配慮する必要がある.

Ⅳ 結  語

経口抗凝固薬エドキサバン内服中に発症した大腸粘膜下血腫を経験した.抗凝固薬は本疾患のリスクである可能性があり,特徴的な内視鏡所見と共に念頭におく必要がある.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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