日本消化器内視鏡学会雑誌
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症例
多発性white globe appearanceを認めたA型胃炎の1例
綾木 麻紀 小原 英幹松永 多恵多田 尚矢冨田 明美室田 將之森 宏仁正木 勉
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2019 年 61 巻 6 号 p. 1226-1230

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要旨

近年,白色球状外観(white globe appearance;WGA)は,胃癌診断に有用な内視鏡的マーカーとして注目される.一方で,非癌病変におけるその臨床的有用性は未だ明らかでない.そこで今回われわれは,多発性のWGAがみられたA型胃炎の1例を報告する.白色光観察にて萎縮粘膜に複数の白点が視覚的に捉えられ,狭帯域併用拡大内視鏡下にてWGAであることが示唆された.白点部の生検では,拡張した腺管内に好酸球性の壊死物質が貯留した病理学的所見を認め,intraglandular necrotic debris(I N D)に合致する所見であった.本例は,非癌病変におけるWGAの臨床的意義を検討する上で,学術的に問う貴重な症例と思われる.

Ⅰ 緒  言

A型胃炎は抗胃壁細胞抗体などの自己抗体によって高度に胃底腺壁細胞が破壊されて生じる.本症は血清学的には抗壁細胞抗体や抗内因子抗体が陽性となり,高度の低酸状態から高ガストリン血症を引き起こすとされている.A型胃炎は進行具合によって内視鏡所見や血液検査所見が異なるため,明確な診断基準は存在せず総合的に判断せざるを得ないのが現状である.拡大内視鏡の普及により内視鏡所見から組織学的な変化を推察できる時代となった.今後はA型胃炎の診断における拡大内視鏡の役割がおおいに期待される.

今回われわれはA型胃炎の萎縮粘膜の拡大観察をおこない,白色球状外観(white globe appearance;WGA)を多数認めた症例を経験したため報告する.

Ⅱ 症  例

患者:68歳,男性.

既往歴:50歳~糖尿病.

内視鏡検査目的:スクリーニング.

臨床検査成績:抗壁細胞抗体陽性(80倍),血清ガストリン値高値(2,940pg/ml),血清ヘリコバクター抗体3U/ml未満.

上部消化管内視鏡検査:胃体部大彎の襞は完全に消失し,血管透見像が見られ高度の萎縮を認めた(Figure 1).前庭部には粘膜萎縮がなく(Figure 2),いわゆる“逆萎縮”所見を呈していた.胃体部の小彎には0.5mm程度の微小な白色顆粒状隆起(以下:白点)を多数認めた(Figure 3-b).近接して中拡大をおこなうと白点は上皮下に存在しており(Figure 4),NBI拡大観察では,WGAと類似した所見を呈していた(Figure 5).白点部周囲の粘膜は円形や楕円形,スリット状の開口部の混在がみられた.また前庭部粘膜は配列の規則正しい管状模様が観察され萎縮のない幽門腺粘膜と考えられた(Figure 6).

Figure 1 

体部は襞が消失し著明に萎縮している.

Figure 2 

幽門腺領域には萎縮性変化は認めない.

Figure 3

a:体部小彎の遠景観察では萎縮粘膜が観察される.

b:体部小彎の近接観察では萎縮した粘膜に大小不同の白点を散見(黄矢印).

Figure 4 

白色光中拡大観察で白点は上皮直下に存在する球状の白色調病変であることがわかる.

Figure 5 

白点はNBI拡大観察ではWGAの所見を認める.

Figure 6 

前庭部粘膜の拡大観察では配列の規則正しい管状模様が観察される.

白点部生検組織所見:生検では上皮直下の拡張した腺管内部に壊死物質を貯留した所見を認め(Figure 7),いわゆるintraglandular necrotic debris(IND)と合致していた.さらに粘膜筋板付近ではECL細胞の増生と,それが内分泌細胞微小胞巣(endocrine cell micronest;ECM)を形成する像も見られた(Figure 8).ECL細胞は免疫組織化学的にsynaptophysin,chromogranin Aともに陽性であった.

Figure 7 

白点部の生検組織では著明に拡張した上皮直下の腺管内に壊死物質が貯留しておりINDの所見であった.

Figure 8 

chromogranin A陽性の小胞巣を散見しECMの増生が確認できる(黄矢印).

臨床経過:前庭部に萎縮を認めず,体部に高度の萎縮がみられること,抗壁細胞抗体陽性であること,生検でECMが確認できることから総合的にA型胃炎と診断した.またA型胃炎の診断を契機に合併疾患を検索したところ,橋本病を併発されており,甲状腺ホルモン補充療法を開始している.

Ⅲ 考  察

WGAは“NBI併用拡大内視鏡観察中に認める,上皮直下に存在する小さな(1mm以下の)白色球状外観”と定義されている.DoyamaらはWGAがNBI拡大内視鏡検査による胃癌診断の新しい内視鏡的マーカーになることを報告し,WGAが胃癌の辺縁でみられること,WGAがアポトーシス・ネクローシス現象を内視鏡で可視化したものであると考察している 1.その後のYoshidaらのWGAの前向き研究ではWGA陽性の非癌病変がごくわずかではあるが存在することが明らかとなり,拡大観察をおこなった非癌病変118病変中3病変の2.5%でWGAが陽性であったと報告している.これら3病変の病理診断は,良性潰瘍,胃炎,潰瘍瘢痕を伴った低異型度腺腫であり,3例中2例が潰瘍と関連した病変であったことから非癌病変におけるWGAは潰瘍と関連がある可能性を同著内で述べている 2.今回,われわれの報告する白点として可視化されたWGAは潰瘍瘢痕や発赤のない平坦な萎縮粘膜に存在していた.白点はサイズが小さいため,十分に粘膜を伸展した状態で萎縮粘膜を丹念に観察すると視認可能であるが(Figure 3-b),遠景観察では指摘が難しい(Figure 3-a).白点はNBI拡大観察では①白色の程度が辺縁から中心に向かうにつれて強くなること②微小血管がWGAの上を走行すること,の2点を満たしておりWGAの判定基準 1を満たしていた.また同部の生検組織は拡張した異型のない腺管内に好酸性の壊死物質の貯留を認め,WGAの組織学的所見であるintraglandular necrotic debri(IND) 1),3と合致していた.INDは“拡張した腺管内に認められる好酸性物質で,壊死に陥った上皮の破片を伴うもの”と定義されている 3.胃生検標本にてINDを認めた場合には,腺癌である可能性がきわめて高いとされているが,同時に非癌症例でも27例中1例(4%)においてINDが認められたと報告されており 3INDは癌の特異的な所見とは完全には言い切れない.既報の癌で認められるWGAの生検組織は拡張した癌腺管内に壊死物質が貯留しており 1,また周囲の腺管もN/C比の高い癌腺管が認められている.本例のINDを形成している拡張腺管には異型は認めず,周囲組織ではリンパ球の浸潤が目立ち,ECMも見られていた.IND以外の所見はA型胃炎の典型的な組織像と思われ,腺管の拡張と壊死が生じた理由については不明である.

A型胃炎は自己免疫機序により胃底腺に進行性の高度萎縮をきたす疾患であり 4,本邦では稀とされていたが,近年寺尾らは胃癌の2次検診受診者の0.77%に本症が存在すると報告した 5.大球性貧血などが合併していないケースでは本症の存在に気づかれていない可能性が高く,今回提示した症例も過去の内視鏡検査ではA型胃炎とは診断されていなかった.A型胃炎を拾い上げる内視鏡所見の基本は前庭部が保たれたまま胃体部が萎縮する“逆萎縮”である.その他にも本症を疑う契機となる所見として発赤の強い過形成性ポリープの多発 6),7や破壊から取り残された胃底腺が島状に小隆起として観察されるpseudopolyp様の所見 8が報告されている.また八木らはA型胃炎の拡大内視鏡所見として萎縮した粘膜でも小円形,楕円形の腺開口部が認められB型胃炎の萎縮粘膜とは像を異にすると述べている 9.本症例も白点が存在する萎縮粘膜は通常光観察所見では高度の萎縮が進んだ状態と判断したが,NBI拡大観察では楕円形の腺窩辺縁上皮に囲まれた細長い腺開口部や小型円形の腺開口部が残存しており,A型胃炎の特徴的な萎縮粘膜の拡大像を呈していると考えられた.また幽門腺領域の拡大観察では規則正しい配列の管状模様が観察され萎縮のない正常な粘膜であることが確認できた.NBI拡大観察は発赤や隆起・陥凹などの標的病変に対しておこなわれることが多いが,本症例のようにNBI拡大観察を用いた背景粘膜の評価はA型胃炎の診断の一助になり得ると思われた.また組織学的な変化を内視鏡で可視化できるWGAはとても興味深い内視鏡マーカーであるが,WGAがA型胃炎の萎縮粘膜に多数認められた意義は今後の検討課題である.

さらなる症例の集積によりWGAの臨床的な意義が明らかになることを期待したい.

Ⅳ 結  語

WGAを多数認めるA型胃炎の症例を報告した.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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