GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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MIGRATION TO THE ESOPHAGUS AFTER PARTIALLY COVERED DUODENAL METALLIC STENT PLACEMENT: SEVERE ADVERSE EVENT
Saori UENO Takeshi OGURAAtsushi OKUDARyo MIYANOWataru TAKAGITatsushi SANOMio AMANOMiyuki IMANISHIDaisuke MASUDAKazuhide HIGUCHI
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2019 Volume 61 Issue 7 Pages 1408-1414

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要旨

72歳男性,心窩部痛を主訴に近医受診,酸分泌抑制薬にて改善なく精査目的に当科紹介,造影CTとEUSにて膵癌腹膜播種の診断となり抗癌剤治療が開始予定であったが,頻回の嘔吐を認めるようになり精査加療目的に当科入院となった.上部消化管内視鏡にて十二指腸球部に腫瘍浸潤による狭窄部位を認めた.悪性十二指腸狭窄に対しカバー付きステントを留置したところ,食道内へ逸脱しステント端に粘膜増生を来し抜去困難となった.このような合併症は稀であり,自験例のように抜去せずに経過観察症例はさらに稀である.カバー付き十二指腸ステントが食道内へ逸脱した際の問題点と逸脱後に経過観察が可能かどうかについて考察した.

Ⅰ 緒  言

膵・胆道癌では,腫瘍の進行に伴い十二指腸閉塞を合併することがある.予後不良な症例にとっては,十二指腸ステント留置術が外科的手術に比し非侵襲的な治療法として広く行われている 1)~3.十二指腸ステントには,カバー付きのものとカバーなしのものの2種類がある.カバー付き十二指腸ステントは,腫瘍ingrowthを防ぐため長いステント開存期間が期待されている.一方で逸脱,急性膵炎,胆管炎やステント破損といった偶発症が比較的高い頻度で報告されている 4)~9.今回われわれは,膵頭部癌による悪性十二指腸狭窄に対し,カバー付き十二指腸ステントを留置後にステントが食道内へ逸脱し,ステント端で肉芽形成を来したため抜去不能となる偶発症を経験したので報告する.

Ⅱ 症  例

患者:72歳 男性.

主訴:嘔吐.

既往歴:高脂血症.

内服歴:プラバスタチンナトリウム10mg.

家族歴:特記事項なし.

現病歴:20XX年X月,心窩部痛を主訴に近医を受診し酸分泌抑制剤による内服加療が行われたが改善なく,体重減少も伴ったため,精査加療目的で当科に紹介となった.腹部造影CT(Figure 1-a,b)では,膵頭部に径40mm大の乏血性腫瘍と,それより尾側の主膵管拡張が認められた.腹腔内には,播種を疑う結節および腹水があり,膵癌による腹膜播種が疑われた.膵腫瘍に対し,超音波内視鏡下穿刺吸引法(Endoscopic ultrasound-guided fine needle aspiration;EUS-FNA)を施行したところ,腺癌細胞が検出された.以上より膵頭部癌による腹膜播種と診断した.以後当院で化学療法を予定していたが,経過中に頻回の嘔吐を認めるようになったため,再入院となった.

Figure 1 

a:早期相で頭部に径40mm大の乏血性腫瘍と尾側膵管の拡張を認めた(赤矢印).

b:肝全面に播種結節を認めた(赤矢印).

入院時現症:身長171cm,体重57.5kg,血圧132/86mmHg,脈拍88回/分,体温36.3℃.

眼球結膜に黄染なし,眼瞼結膜に貧血なし,心肺異常なし,腹部は平坦,軟,心窩部痛に軽度の圧痛あり,背部痛あり.

入院時血液検査:全血算・生化学検査では明らかな異常は認められなかったが,腫瘍マーカーは,CEA 8.7ng/ml,CA19-9 1,443.0U/ml,SPAN-1 640U/ml,DUPAN-2 200U/mlと上昇を認めた.

上部消化管内視鏡:十二指腸球部に癌の浸潤を考える全周性の浮腫状発赤粘膜を認め,内視鏡の通過は不能であった(Figure 2).

Figure 2 

十二指腸球部に全周性の浮腫状発赤粘膜を認めた.

十二指腸ステント留置術:ERCP用のカテーテルおよびガイドワイヤーを用い,十二指腸狭窄部を突破した.造影を行ったところ,狭窄範囲は十二指腸球部から乳頭部より口側までであった.十二指腸閉塞に対し,22mm×9cmのカバー付き十二指腸ステント(ComVi stent;Niti-S duodenal stent, Taewoong Medical, South Korea)を留置した(Figure 3-a~c).

Figure 3 

a:透視下に大腸用スコープを用いて,スルーザスコープ法にて十二指腸カバー付きステントを留置した.

b:留置後の十二指腸金属ステントの口側端.

c:穿孔,逸脱,急性膵炎を防ぐため,ステントの口側端を幽門輪にかかるように,肛門側端はVater乳頭の口側にくるようにリリースした.

臨床経過:術翌日の腹部レントゲンにてステントの位置ずれはなく,十分なステント拡張が得られており,術後2日目より経口摂取を開始した.以後の経過は良好でありGastric outlet obstruction scoring system(GOOSS) 10は0点から3点へ改善した.しかし,術後6日目より頻回の嘔吐が再燃し,再度経口摂取が困難となった.腹部レントゲンを施行したところステントは十二指腸に存在しなかったため,ステント逸脱と判断し,re-interventionを行う方針とした.内視鏡を挿入したところ,下部食道から胃食道接合部にかけて逸脱したステントが認められた(Figure 4-a~c).抜去を試みたところ,カバー付き十二指腸ステント端のUnvovered部分に粘膜増生,肉芽形成を来していた.把持鉗子にてステントの粘膜を少しずつ剥離するよう試みたが,出血傾向が強く,またステントと増生粘膜の癒着も強く抜去不能であった.スコープの通過は可能であったため,悪性十二指腸狭窄に対しては,カバーなし十二指腸ステント(22mm×9cm,Evolution duodenal stent, Cook Medical, Limerick, Ireland)を再留置した(Figure 4-d).術翌日の腹部レントゲンでステント位置に問題なく術後3日目より経口摂取を再開した.以後は経過良好であり2回目のステント留置後16日目に退院となった.その後心窩部違和感を認めたものの,幸い食道に迷入したステントのトラブルなく経過し,ステント逸脱3カ月後,原疾患増悪により永眠された.

Figure 4 

a:逸脱した十二指腸ステントの口側端のカバーで覆われていない部位に粘膜増生を来していた.

b:逸脱したステント内には腫瘍ingrowthを来しておらずスコープの通過は容易であった.

c:逸脱したステントの肛門側がEGJにひっかかっていた.

d:逸脱したステント内にスコープを通過させ,カバーなし十二指腸ステントを十二指腸閉塞部位に追加留置した.

Ⅲ 考  察

悪性十二指腸閉塞に対する治療には,外科的胃空腸バイパス術と内視鏡的ステント留置術がある 3),11),12.両者は手技成功率と臨床的成功率は共に有意差はみられない 12.一方で後期偶発症に関しては外科的胃空腸バイパス術には再閉塞などが12%に報告されているのに対し,内視鏡的ステント留置術では再閉塞,ステント逸脱,穿孔などが44.4%と比較的高い確率で報告されている 11.また,流動食摂取開始までの平均日数は外科的胃空腸バイパス術では5日であるのに対し内視鏡的ステント留置術では2日と内視鏡的ステント留置術の方が早期に経口摂取を開始できている 11.以上から,推定予後が2カ月未満の症例には内視鏡的十二指腸ステント留置術が,予後が期待できる症例には外科的胃空腸バイパス術が選択されることが多い 11.本症例は,初診時にStage4bの進行膵癌であり,予後は2カ月未満であることが予想されたため,十二指腸ステント留置術を選択した.

使用される十二指腸金属ステントには,カバー付きと,カバーなしの2種類があり,近年本邦でもカバー付き十二指腸ステントの使用が可能となった.カバー付きステントは,金属ステントの周囲をポリエチレンなどの素材でできたカバーで覆っているもので,カバーなしステントに比べ腫瘍ingrowth率が低くなる.一方で高い逸脱率も報告されている 13)~15

Leeらは悪性十二指腸閉塞154例に対する十二指腸ステントのカバーの有無による前向き臨床試験を報告している 13.カバー付き群70例,カバーなし群84例の検討で,手技成功率はともに100%,臨床的有効率は各々98.6%,96.4%と有意差は認めなかった.しかし,処置後1週間未満の早期偶発症としてのステント逸脱率はカバー付き群7.1%,カバーなし群0%と有意にカバーなし群で低かったとしている 13.一方で腫瘍ingrowth率はカバー付き群0%,カバーなし群1.2%と,有意差は認めなかったとしている 4.処置後1週間以上の後期偶発症に関しては,ステント逸脱率はカバー付き群10.0%,カバーなし群0%と有意にカバー付き群で高いとの結果であり,腫瘍ingrowth率は各々2.9%,15.5%とカバー付き群で有意に低いとしている 4.また,ステント開存期間中央値はカバー付き群75日(47~134日),カバーなし群73日(44~102日)と有意差は認めなかった 13

現在,悪性食道狭窄に対しても広く金属ステント留置が行われているが 15)~18),19,ステント肛門側が噴門部にかかるように留置された症例では胃内容物の逆流による胸焼けや誤嚥性肺炎等の報告がある 14.またステントの機械的刺激による潰瘍形成からの出血や粘膜圧迫壊死による下行大動脈,気管支穿通などの重度偶発症も報告されてる 15.本症例も逸脱したステントが噴門部にかかる形で食道内に留まっており,強い肉芽形成により内視鏡的ステント抜去が困難であった.そのため,同様の偶発症が起きる可能性が危惧されたが,幸い心窩部違和感のみで経過した.

Mohamadらは良悪性の食道,胃食道接合部狭窄症例36例に対して,カバー付きステントを留置し22例に対し抜去を行っているが抜去症例のうち50%に何らかの肉芽形成,潰瘍形成などの組織反応がみられたとしている 20.組織反応は長期留置症例ほど強いと報告されている.また,13例が逸脱し,うち3例は本症例と同様に口側食道への逸脱であった.

また,食道破裂などに対してもカバー付きステント留置による保存的加療の報告があるが,食道胃接合部に留置された症例では,胃酸逆流によりカバーが溶け,食道粘膜に強い炎症が起きたことによる肉芽増生のために治療後の内視鏡的ステント抜去が困難となり外科的抜去が必要になった例も報告されている 21.本症例に使用したカバー付きステントは両端にUncovered部位を有しており,同部位に組織反応を起こさせることにより逸脱を予防する効果がある.しかしながら,今回のように,留置後早期に逸脱し,特に胃酸逆流の影響のある胃食道接合部に逸脱した場合は,Uncovered部位に抜去困難な強い組織反応を起こす症例もあり注意が必要と思われる.

Koらは良悪性の食道,胃十二指腸狭窄について888例のカバー付きステントを留置し,70例にステント逸脱が発生したと報告している 22.逸脱した70例のうち40例は通過障害など何らかの偶発症を伴ったため抜去されているが,無症状であった12例は抜去せず経過をみられている.本症例も抜去せず経過をみたが,原疾患で永眠されるまで通過障害や疼痛などの偶発症なく経過した.

カバー付き十二指腸ステントは,ingrowth防止の観点からは有用な可能性が示唆されるが,食道内に逸脱した場合は,その適応は慎重にすべきであると考えられた.また逸脱したステントに関しては,抜去の際のリスクが高く逸脱による偶発症を伴わない場合は経過観察も可能であると思われた.

Ⅳ 結  論

カバー付き十二指腸ステントを悪性十二指腸狭窄に留置後,食道内へ逸脱しステント端のカバーのない部位に粘膜増生を来し抜去不能となった症例を経験したので報告する.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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