GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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SIX CASES OF DUODENAL DIVERTICULAR HEMORRHAGE SUCCESSFULLY TREATED BY ENDOSCOPIC TECHNIQUES
Izuru ABE Motoki OHYAUCHIYushi INOMATAToshimitsu IWABUCHIHirotaka ITOYuichirou SATOTakehiko IGARASHI
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2019 Volume 61 Issue 9 Pages 1643-1649

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要旨

十二指腸憩室出血の6例を経験した.上部消化管出血の症例において,食道,胃,十二指腸球部までに明らかな出血源が認められない場合や,画像検査で十二指腸憩室を認める場合は,十二指腸憩室出血を鑑別に挙げて,水平部まで慎重に観察することが望ましい.直視鏡に透明フードを装着することで,十二指腸憩室内へのアプローチ,視野確保が比較的容易となり,憩室内の凝血塊,食物残渣の除去にも有用であった.十二指腸憩室の多くは仮性憩室であり,出血源として露出血管を認めることが多いことから,組織破壊が少ないクリップ法は安全性に優れ,有用な止血法と考えられた.

Ⅰ 緒  言

十二指腸憩室は消化管憩室の中で大腸憩室に次いで多く,加齢に伴って発生率が高くなるとされるが,多くは無症状に経過する 1.一方,頻度は少ないものの,十二指腸憩室からの出血を認めることがある.今回われわれは,内視鏡的止血術が有効であった十二指腸憩室出血の6例を経験したので報告する.

Ⅱ 症  例

症例1

患者:84歳,女性.

主訴:黒色便.

既往歴:2013年に上部消化管出血にて当科での入院歴があり,十二指腸水平部に大型憩室を認めていたが,出血源は特定されていなかった.陳旧性脳梗塞に対して低用量アスピリン,胃食道逆流症に対してエソメプラゾール20mgを内服していた.

現病歴:2016年6月に黒色便を認め,翌日に嘔気が出現して近医を受診し,貧血を指摘され,消化管出血が疑われたため当院救急外来を紹介受診した.

入院時現症:血圧142/95mmHg,脈拍95bpm.腹部:平坦,軟.

血液生化学検査所見:Hb 9.2g/dlの貧血,BUN 38.5mg/dl,Cre 0.50mg/dlとBUNの上昇を認めた.

腹部単純CT検査:十二指腸水平部に液貯留を伴う約35mm大の憩室を認めた.

入院後経過:上部消化管出血の診断として,透明フードを装着した送水機能付きの直視鏡(Olympus社製,GIF-Q260J)を用いて緊急上部消化管内視鏡検査を実施した.十二指腸水平部に大型の憩室を2個認め,口側の憩室内に凝血塊と食物残渣の貯留を認めた.吸引と把持鉗子を用いて内容物を除去したところ,憩室内に露出血管を認め(Figure 1-a),クリップ4個で止血術を施行した(Figure 1-b).第8病日より黒色便の再発を認め,第9病日の採血検査にて貧血の進行を認めたことから,再度上部消化管内視鏡検査を施行した.水平部口側の憩室内に貯留した食物残渣を除去したところ,前回留置したクリップは1本を残して脱落していた.クリップの近傍に露出血管を伴う小潰瘍を認め,クリップの脱落による露出血管の残存と考えられた.クリップ2個を追加留置したところ噴出性出血を認め,合計4個のクリップ留置により止血を得た.以後,明らかな偶発症や再出血なく経過した.

Figure 1 

自験例1の内視鏡所見.十二指腸水平部の大型憩室内に露出血管(矢印)と食物残渣の貯留を認め(a),クリップ法による止血を実施した(b).

症例2

患者:92歳,男性.

主訴:吐血.

既往歴:心房細動に対してリバーロキサバン10mgを内服していた.変形性膝関節症に対してエトドラクを内服していた.

現病歴:2017年10月に吐血と黒色便を認めていた.翌日に近医を受診し,上部消化管出血が疑われ当院救急外来を紹介受診した.

入院時現症:血圧101/61mmHg,脈拍100bpm.腹部:平坦,軟,心窩部に圧痛あり.

血液生化学検査所見:Hb 5.5g/dlの貧血,BUN 36.6mg/dl,Cre 0.95mg/dlとBUNの上昇を認めた.

腹部造影CT検査:上十二指腸角に約40mm大の憩室を認め,憩室内に造影剤の血管外漏出像を認めた(Figure 2-a).

Figure 2 

自験例2の腹部dynamic CT検査画像(a)において,十二指腸下行部の上十二指腸角側に約40mm大の憩室を認め,憩室内に造影剤の血管外漏出を認めた(矢印).

上部消化管内視鏡検査で十二指腸下行部の大型憩室内に露出血管(矢印)を認め(b),クリップ法による止血を実施した.

入院後経過:CT所見から十二指腸憩室出血を疑い,緊急上部消化管内視鏡検査を実施した.上十二指腸角の後壁側に大型憩室を認め,内部に凝血塊の貯留を認めた.憩室内への内視鏡の挿入に難渋したが,透明フードを利用することで憩室内の良好な視野が得られた.把持鉗子で凝血塊を除去したところ,憩室内に露出血管を認め(Figure 2-b),ショートクリップ2個による止血術を施行した.以後,明らかな偶発症や再出血なく経過した.

Table 1にその他の症例を含めた6例の概要を示す.当施設での自験例6例はすべて2016年,2017年に経験した.平均年齢は84.2歳であり,4例が女性であった.主症状として全例に黒色便を認め,2例で吐血を伴い,3例が初診時にショックバイタルを呈していた.3例に低用量アスピリンの内服歴があり,異なる2例にNSAIDsの内服歴を認めた.また3例にプロトンポンプ阻害剤(PPI)の内服歴を認めた.出血源となった憩室は4例が下行部,2例が水平部に存在し,憩室径の平均値は27.0mmであった.全例で透明フードを装着した送水機能付きの直視鏡(Olympus社製,GIF-Q260J)を用いて観察し,十二指腸憩室内に貯留した凝血塊,食残を除去したところ,自験例1-5では露出血管,自験例6ではびらんを認めた.いずれも初回の内視鏡検査で十二指腸憩室出血の診断を得られ,クリップ法を第一選択とした内視鏡的止血術により一次止血を得られた.自験例5ではクリップの展開が困難のためアルゴンプラズマ凝固法を実施したが(Figure 3-a),第7病日に潰瘍底の露出血管からの再出血を認め(Figure 3-b),ショートクリップを用いたクリップ法(Figure 3-c)により止血を得た.全例とも明らかな偶発症は認めなかった.

Table 1 

当院で経験した十二指腸憩室出血6例の概要.

Figure 3 

自験例5の内視鏡所見.十二指腸下行部の憩室内に露出血管を認め,クリップの展開が困難であることからアルゴンプラズマ凝固法を実施した(a).

第7病日に潰瘍底の露出血管からの噴出性出血を認め(b),ショートクリップを用いたクリップ法により止血を得た(c).

Ⅲ 考  察

十二指腸憩室は大腸憩室に次いで多い消化管憩室であり,上部消化管内視鏡検査にて12-27%に認められるとされる 2.発生部位は60-95%が下行部であり,大半は無症状で経過するが,稀に出血,穿孔,十二指腸閉塞などを合併する 2),3.十二指腸憩室出血は,上部消化管出血の0.06%と報告されており 4,消化管出血の一般的なアルゴリズムにおいてpit fallになりやすい疾患とされる 5

「十二指腸」と「憩室」,「出血」をキーワードに医学中央雑誌(1989年から2017年)を検索した結果,本文または抄録を参照可能な報告例は70例であった.自験例6例を合わせ,合計76例の検討を行った(Table 2).

Table 2 

十二指腸憩室出血76例の臨床的特徴.

十二指腸憩室出血の発生部位は,本検討では下行部が48例(63.2%),次いで水平部が22例(28.9%)であり,既報の下行部57-65%,水平部31-32%とほぼ同様であった 6)~8.全体で66例(86.8%)が上部消化管内視鏡検査により確定診断を得られており,下行部に限れば48例中46例と高率に内視鏡診断を得られていた.一方で水平部,上行部の憩室出血は内視鏡診断が難しい可能性が指摘されており 9,本検討でも水平部では22例中18例と内視鏡診断の割合が比較的低く,上行部の2例は内視鏡診断が得られていなかった.また内視鏡診断を得られた症例においても,下行部で46例中16例,水平部で18例中8例は初回の内視鏡検査で確定診断に至らず再検査を要していた.自験例1を含めた5例で,過去に原因不明の消化管出血の既往があり,出血源が特定されなかった消化管出血症例の中に,十二指腸憩室出血が潜在的に含まれる可能性が示唆された.

上部消化管出血に対する診断アルゴリズムとして,CTなどの画像検査で十二指腸憩室を認める場合は憩室出血を鑑別疾患として考慮する必要があると考えられる.また食道,胃,十二指腸球部までに出血部位を特定できない症例に対しても,本疾患を考慮して十二指腸水平部まで慎重に観察することが望ましいと考えられた.

十二指腸憩室出血の治療は,1990年以前は外科手術,血管内治療の報告が多かったが,1991年以降は内視鏡的止血術が主流となっており 10,本検討では内視鏡診断を得られた66例(86.8%)の内,55例(72.4%)で内視鏡的止血術が実施されている(Table 2).内視鏡的止血法としてはクリップ法が30例(39.5%)と最も多く選択され,次いで局注療法が9例(11.8%),熱凝固法が8例(10.5%),クリップ法+局注療法併用が6例(7.9%),クリップ法+熱凝固法併用が2例(2.6%)で選択されている.再出血は55例中12例に認められ,最終止血法として3例で手術,2例で動脈塞栓術(TAE)が選択されている.各止血法での再出血率はクリップ法単独で10.0%,局注療法単独で11.1%であるのに対して,熱凝固療法単独では62.5%と高率に認められた(Table 3).

Table 3 

十二指腸憩室出血に対する止血法と偶発症の検討.

止血術の偶発症としては穿孔が5例,限局性腹膜炎が1例,血清膵酵素上昇が1例報告されている.十二指腸憩室の多くは筋層を伴わない仮性憩室であり,出血源として露出血管を認めることが多いため,組織破壊が少ないクリップ法が最も安全な止血法と考えられている 7.止血術ごとの報告はクリップ法で穿孔2例と腹膜炎1例(10.0%),局注療法で穿孔1例と膵酵素上昇1例(22.2%),クリップ法と局注療法の併用で穿孔1例(16.7%),動脈塞栓術で穿孔1例(11.1%)であった(Table 3).報告数が少ないため有意な値ではないが,クリップ法においても偶発症のリスクがある点は留意すべきである.一方でクリップ法の偶発症はいずれも保存的治療により軽快しており,比較的安全性が高い治療法と考えられた.

2000年代より透明フードの装着が十二指腸憩室出血の内視鏡診断,治療に有用であったとの報告がみられており,本検討では24例(31.6%)が透明フードを装着して内視鏡的止血術(クリップ法21例,熱凝固法3例)を施行していた.透明フードの利点としては,憩室内で病変と一定の距離を保つことが可能であること,憩室内に貯留した凝血塊や食物残渣をフード内に収納することで,容易に憩室外へ除去できることが報告されている 11

診断時に側視鏡を用いた症例は10例(13.2%)にみられたが,内2例は止血困難のため直視鏡へ切り替えられており,その他2例でTAEが選択されている.側視鏡では十二指腸内腔から憩室内の病変まで距離があること,鉗子起立装置のためにクリップなどの腰の強い処置具が使用困難であることから,透明フードを装着した直視鏡での止血術が望ましいとの報告がある 11.自験例はすべて透明フードを装着した送水機能付きの直視鏡を用いて観察したが,透明フードにより憩室内へのアプローチ,視野確保が比較的容易となり,憩室内の凝血塊や食物残渣の除去にも有用だった.上十二指腸角後壁側の憩室が出血源となった症例6のように,下行部であっても憩室内へのアプローチが非常に困難な症例もあり,透明フード装着が望ましいと考えられた.一方,直視鏡で出血点が確認できず側視鏡へ切り替えられたとする報告も2例認められ,状況によって内視鏡を使い分けることが望ましいが,十二指腸憩室出血の止血処置において,透明フードを装着した直視鏡とクリップ法は第一選択となり得ると考えられた.

十二指腸憩室出血の発症機序として,十二指腸憩室は腸管内の小血管が筋層を貫通する脆弱部に発生する仮性憩室であることが多く,筋層の収縮運動により小血管の血流が阻害され,粘膜虚血が生じやすいと考えられている 10),12.また憩室内に食物残渣や薬物などが停滞することにより,憩室内圧の上昇から粘膜虚血が生じる可能性や,停留物による憩室炎の影響も推察されている 10),13.自験例では2例に憩室内への食物残渣の停滞が認められたことから,繊維質の多い食物の摂取を控えるよう指導している.

NSAIDsやアスピリンが十二指腸憩室出血の誘因になる可能性があるとの報告も挙げられており 13),14,本検討では服薬歴を確認できた22例の内,NSAIDsの内服が9例,低用量アスピリンの内服が9例に認められ,誘因の一つになる可能性が示唆された.高齢化とそれに伴うNSAIDs,抗血栓薬投与の増加により,十二指腸憩室出血の発症率が今後増加していく可能性があると考えられる.

十二指腸憩室出血に対する胃酸の影響は明らかにされていないが,プロトンポンプ阻害剤の維持投与中に発症した症例が4例あり,胃酸分泌抑制薬による予防効果は乏しい可能性が示唆された.

Ⅳ 結  論

十二指腸憩室出血は上部消化管出血のpit fallになり得る疾患であり,画像検査で十二指腸憩室を認める場合や,十二指腸球部までに出血源が認められない場合には,本疾患を鑑別に挙げて水平部以遠まで観察を行うことが望ましい.十二指腸憩室出血の内視鏡診断,治療において,透明フードの装着とクリップ法による機械的止血は有用であった.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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