GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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A CASE OF ILEUS SUCCESSFULLY TREATED BY COLONOSCOPIC REMOVAL OF MIGRATED GASTRIC BEZOARS OBSTRUCTING THE TERMINAL ILEUM
Ken HAYASAKA Hirotaka ISHIDAMayuko SAITO
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2019 Volume 61 Issue 9 Pages 1656-1662

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要旨

症例は76歳,男性.腹痛にて受診し,CTにて胃石症およびイレウスと診断した.回腸末端に含気のあるモザイク状の腫瘤を認め,落下胃石の嵌頓によるイレウスが疑われた.結石嵌頓部位が回腸末端であったため,大腸内視鏡にて到達可能で,スネアを用いて結石を摘出することによりイレウスを解除した.胃内の残存結石に対しても2チャンネルの上部消化管内視鏡を用いて,スネアおよび鉗子で結石を破砕して摘出した.胃石によるイレウスは一般的に外科手術による摘出の適応となる場合が多いが,適切な画像診断で結石の位置を把握することによって,内視鏡的治療を選択して手術を回避した.

Ⅰ 緒  言

胃石症は摂取した食物成分などが胃内で結晶化する比較的稀な疾患であり,胃内に停滞する胃石は,胃潰瘍や落下によるイレウスをきたす可能性があることから,さまざまな方法での摘出が試みられている.近年では内視鏡的治療の報告が多い.一方で小腸に落下してイレウスをきたした場合,ほとんどの症例において外科手術による摘出が行われている.今回,われわれは回腸末端に嵌頓してイレウスを発症した落下胃石症例に対して,大腸内視鏡にて結石を摘出することによって手術を回避するとともに,胃内の残存結石に対しても上部消化管内視鏡によってすべて摘出し得た症例を経験したので報告する.

Ⅱ 症  例

症例:76歳,男性.

主訴:腹痛.

既往歴:前年に肺炎にて入院.この際のCT検査では胃石は認めなかった.

生活歴:発症前に柿の摂食習慣はなかったが,緑茶は多飲していた.

現病歴:前日より間欠的な腹痛あり,改善しないため当院を受診した.腹部レントゲン,腹部CT検査にてイレウスと診断され,入院となった.

入院時現症:身長156.0cm,体重41.5kg,血圧130/75mmHg,脈拍93/分,体温37.0℃.腹部は全体に緊満しており,臍周囲から心窩部にかけて圧痛を認めた.筋性防御,反跳痛は認めなかった.腸蠕動音は亢進していた.

入院時検査所見:WBC 9,600/mm,CRP 0.34mg/dlと軽度の炎症反応の上昇を認めた.この他,血液検査では異常は認めなかった.

腹部造影CT検査:小腸の広範な拡張および腸液の貯留を認めた.腹水は認めなかった.胃内には胃石が疑われる等吸収の50~60mm大の構造物を3個認めた(Figure 1).回盲部近傍の回腸管腔内に含気のあるモザイク状の30mm大の円形の構造物を認め,前後で腸管の口径差を生じていることから,同部位が閉塞部位と考えられた(Figure 2).

Figure 1 

腹部CT検査では,胃内に胃石が疑われる等吸収の50~60mm大の構造物を認めた.

Figure 2 

腹部CT検査では,小腸の広範な拡張および腸液の貯留を認め,回盲部近傍の回腸管腔内に含気のあるモザイク状の30mm大の円形の構造物を認めた.

上部消化管内視鏡検査:CT所見のみでは,胃石症との確定診断に至らず,治療方針の決定が困難であったため,上部消化管内視鏡検査を施行したところ,胃穹窿部に緑~茶褐色,表面が比較的平滑で卵円形の50mm程度の結石を3個認めた(Figure 3).胃粘膜に潰瘍やびらんは認めなかった.

Figure 3 

上部消化管内視鏡検査では,胃穹窿部に緑~茶褐色,表面が比較的平滑で卵円形の50mm程度の胃石を3個認めた.

腹部超音波検査:CT検査にて回腸末端での落下胃石の嵌頓が疑われたことから,右下腹部を超音波検査にて確認したところ,盲腸近傍に後方エコーの減弱を伴う30mm程度の高エコー腫瘤を認めた(Figure 4).腫瘤と連続する回腸は拡張し腸液が貯留していた.

Figure 4 

腹部超音波検査では,盲腸近傍に後方エコーの減弱を伴う30mm程度の高エコー腫瘤を認めた.

以上より胃石症および落下胃石の回腸末端での嵌頓によるイレウスと診断した.入院後,嵌頓結石の自然排出を期待して,絶食として経過観察したが,翌日になっても症状は改善せず,CT再検査でもイレウスの解除は確認されなかった.開腹手術による嵌頓結石の摘出を検討したが,イレウスの原因となっている落下胃石は,画像診断では回腸末端のバウヒン弁近傍に嵌頓していることが予想されたため,内視鏡的に摘出できる可能性があると考えて,大腸内視鏡による摘出を試みる方針とした.イレウス管を挿入して小腸の減圧を行った上で,大腸内視鏡検査を行ったほうが安全性が高いと考えられたが,減圧を行った場合,回腸末端の結石が口側に押し戻されて大腸内視鏡的に到達不能となることが懸念されたため,減圧は行わず,浣腸の前処置のみで大腸内視鏡検査を行うこととした.回腸末端に結石が確認できず,大腸内視鏡的に治療が不能と判断した場合には,その場でただちにイレウス管を挿入してすみやかに減圧を行い,開腹手術を行う方針とした.この治療方針につき,患者本人および家族に十分に説明をした上で同意を得た.

入院翌日に施行した大腸内視鏡検査では,回腸末端の嵌頓結石による盲腸の壁外性の圧排が確認された(Figure 5).バウヒン弁から回腸末端にスコープを挿入すると,嵌頓した結石が確認された(Figure 6).結石は前日に確認した胃内のものと異なり,外殻が消失していた.スネアを用いて把持可能で,一部を破砕した後,結石をスネアにて把持してバウヒン弁から引き出して摘出した.摘出した結石は一部を破砕しているが,大きさは28mm大であった(Figure 7).結石を摘出後,回腸から盲腸への腸液の流出が確認された.

Figure 5 

大腸内視鏡検査では,回腸末端の嵌頓結石による盲腸の壁外性の圧排が確認された.

Figure 6 

バウヒン弁から回腸末端にスコープを挿入すると,嵌頓した結石が確認された.

Figure 7 

大腸内視鏡にて摘出した結石は,一部を破砕しているが,大きさは28mm大であった.

回腸末端に嵌頓した結石を摘出した後,同日中に泥状便の排泄を認め,イレウスは解除して腹部症状は解消した.この後,胃内に残存した胃石が今後,イレウスや潰瘍等の原因となることが考えられたため,内視鏡的に摘出する方針とした.胃石の除去はオーバーチューブを挿入の上,2チャンネルスコープ(GIF-2TQ260M Olympus社)を用いて行った.胃石の外殻は平滑で滑りやすく,スネアでの把持が困難であったため,胃石の被殻はワニ口鉗子を用いて破砕した(Figure 8).外殻より内部は比較的柔らかい構造物であり,スネアの絞扼による破砕や,スネアの通電により,少量ずつ切開することが可能であった.被殻の破砕とスネアによる切開を繰り返すことにより,胃石を破砕・分割して,ネット鉗子を用いて摘出した.胃石が大きいため処置に時間を要したが,約2時間の処置を,初回入院時に3回,退院を挟んで再入院後に1回行い,計4回の処置で内視鏡的に3個の胃石をすべて摘出した.

Figure 8 

胃石は被殻をワニ口鉗子を用いて破砕し,スネアの絞扼による破砕や,スネアの通電により分割して摘出した.

摘出した胃石の成分分析は98%以上がタンニンであった.柿摂取の習慣がなかったことから多量の緑茶摂取との関連が疑われた.胃石の摘出から6カ月後に行った上部消化管内視鏡検査では胃内に胃石の再生成は確認されていない.

Ⅲ 考  察

胃石は摂取した食物成分や異物が,胃酸や胃粘液の作用により胃内で結晶化したものであり,本邦では食物胃石が多数を占める.胃石の主成分はタンニンである場合が多く,タンニンの1種であるシブオールが,胃酸と反応して可溶性から不溶性に変化して,凝固・析出することにより生成されると言われている 1.タンニンを多く含む柿摂取が原因と考えられる症例の報告が多く,本邦では約70%が柿胃石と言われている 2.本症例でも結石の主成分はタンニンであったが,摂食状況の聴取では柿摂取の嗜好はなかった.また,タンニンは緑茶,豆類,干しブドウ等にも多く含まれており,緑茶による胃石の報告もある 3.本症例では,緑茶を日常的に多飲していることから,緑茶が胃石形成の原因となっていた可能性が考えられる.また,胃石は胃切除後の残胃や糖尿病性神経症等により,胃内容の排泄障害がある場合に形成されやすく,本邦における胃石の報告例の約30~50%に,胃切除や迷走神経切断術兼幽門形成術の既往があるとされる 4),5.しかしながら,本症例では誘因となり得る異常や既往症は認めなかった.本症例は発症の1年前に肺炎での入院歴があるが,その際のCTでは胃内に胃石は認めていなかったため,比較的急速に巨大な胃石が複数形成されたことがわかる.

胃内の結石の存在に関しては,腹部CTや内視鏡検査により診断は容易であるが,腸管に落下してイレウスをきたした場合,診断に苦慮する場合も多い 3),5),6.本症例はイレウスの発症を契機として受診したが,CT,内視鏡検査にて胃内に残存する胃石を複数認めることから,一部の胃石の落下によるイレウスを疑うことができた.本症例のCT所見では,胃内の結石は含気が目立たなかったが,回腸末端に嵌頓した結石は含気を有するモザイク状の所見であった.本症例において胃内から摘出した胃石は,硬く平滑な外殻と,比較的疎で弾性があって崩れやすい内部構造の,2重の構造で構成されていた.一方で回腸末端に嵌頓していた結石は,摘出時には外殻が失われており,この影響で含気のある状態に変化したものと考えられた.外殻が失われた原因としては消化管内のPHの変化等の環境の変化の可能性が考えられた.過去の報告例でも,胃石によるイレウスのCT所見として腸管内の含気性でモザイク状の腫瘤影が典型的とされている 7.本症例ではCT所見のみでは,診断の確定が難しかったため,腹部エコー検査を行ったところ,腸管内の音響陰影を伴う高輝度な腫瘤が確認可能で,結石の存在および位置の確認には有効であった.

胃石の合併症として胃潰瘍や落石によるイレウスがあり,胃潰瘍穿孔例の報告 8もあることから積極的な治療が行われている.特に幽門側胃切除術後の胃石症例ではイレウスの合併が多いが,本症例のように幽門輪が保たれている場合でも,腸閉塞をきたす大きさの胃石が小腸へ落下し得る.35mm以上の胃石では腸閉塞が生じる可能性がある 5とされているが,最大径で60mmの胃石が幽門を通過して十二指腸に嵌頓した症例の報告 9もあり,ほとんどの胃石症例においてイレウスの発症に注意する必要があると言える.胃石の治療において,結石を破砕する場合は,小腸へ落下した際に嵌頓する恐れがあることから,20mm以下の大きさまで破砕することが望ましいとされている 4

胃内で停滞する胃石に対する治療法としてはコーラによる溶解療法 10,内視鏡的治療,外科手術が主である.近年は内視鏡手技の発達により内視鏡的治療の報告が多い.内視鏡治療ではスネアや鉗子を用いて破砕する方法 11,レーザー照射 12,電気水圧衝撃波を用いた方法 13の報告がある.内視鏡による胃石の破砕には総胆管結石用砕石バスケットを用いた症例や 14,ガイドワイヤーを用いた自作砕石器の使用例 15などが報告されている.本症例では胃内に残存する胃石に対して,主にスネアや鉗子を用いて破砕する処置を行った.胃石の破砕においてはスネアの通電も用いた.胃石の外殻部分はスネアを通電しても切開はできなかったが,内部は通電によりある程度切開可能であった.胃石の主成分はタンニン酸と結合したタンパク質であるため,高周波による凝固・変性により切開可能と考えられる.実際に胃石の切開にスネアの通電を用いた報告は,本症例以外に過去に1例の報告があり 16,有効性が述べられている.胃石は胃内で移動可能であるため,通電に際しても視野が十分に確保できる位置で処置が可能であり,安全性に関しては問題ないと考えられた.使用するスコープに関しては,2チャンネルのスコープの有用性が報告されているが 17,本症例でも2チャンネルスコープを使用した.2チャンネルスコープでは,胃石の外殻を鉗子で破砕する際に,スネアを用いて把持することが可能で,処置を行う上で非常に有用であった.本症例は手術を回避したものの,胃石が非常に大きく,かつ個数が多かったため,胃石の完全な除去までに長時間(2時間程度の処置を4回)を要した.スネアの径が小さく胃石の把持が困難であったことから高田ら 15が報告しているような,スネアの工夫により処置時間を短縮できた可能性がある.内視鏡による胃石の破砕については,今後,処置時間を短縮するための,さらなる工夫が必要である.

一方で胃石が小腸に落下して嵌頓し,イレウスを発症した症例では,保存的治療では効果が得られない場合が多く,小腸穿孔をきたす可能性もあることから 5,外科手術の適応となる場合が多い(Table 1).胃石によるイレウスを内視鏡治療により解除することに成功した症例の報告は,検索し得た限りでは3例のみであった.十二指腸水平部での結石嵌頓によるイレウスでは,大腸内視鏡を経口挿入して結石を破砕してイレウスを解除した症例の報告があり 9,回腸末端に結石が嵌頓したイレウスでは,X線透視下で用手圧迫によって結石を移動して,バウヒン弁を通過させた後に大腸内視鏡にて摘出した症例 18と,本症例と同様に回腸末端に大腸内視鏡を挿入してスネアを用いて摘出した症例 19の報告がある.胃石によるイレウスの治療例(Table 1)をみると,内視鏡治療成功例の結石嵌頓部位は,十二指腸水平部と回腸末端で,いずれも内視鏡での到達・処置が比較的容易な部位であるのに対し,手術症例では空腸や回盲部から離れた回腸に嵌頓しているものが多く,術前に小腸内視鏡治療が試みられた症例 4),20もあるが摘出には至っていない.また内視鏡治療成功例にはいずれも胃切除の既往はなく,小腸に嵌頓した結石が幽門を通過していることから,結石の形状や大きさが摘出しやすいものであったと考えられる.本症例は結石の嵌頓部位を画像検査によって特定することが可能であり,嵌頓部位が大腸内視鏡により到達可能と判断できたため,内視鏡的処置を試みることができた.嵌頓した結石に対する処置は胃内の結石に対する方法と同様に行ったが,胃内の結石と違ってスネアが滑りやすい外殻が消失しており,把持が比較的容易で処置の難易度は胃内結石と比べると容易であった.コーラによる溶解療法の後に胃石が脆弱化し,スネアによる内視鏡的砕石が容易になるという報告があるが 21,胃から落石した結石では,上述のように消化管内の環境の変化によって外殻がすでに脆弱化している可能性が考えられた.小腸に嵌頓した落下胃石症例であっても,内視鏡により到達可能と判断できれば,内視鏡的摘出を考慮すべきであると考えられる.

Table 1 

落下胃石嵌頓によるイレウスの治療例.

Ⅳ 結  語

落下胃石の嵌頓によるイレウスは,一般的に外科手術による摘出の適応となる場合が多い.本症例では,CTおよびエコー所見から,結石が回盲部付近に嵌頓していると考えられたため,大腸内視鏡による摘出を試みて,イレウスの解除に成功した.胃石の特徴的な画像所見をふまえ,適切な画像診断で結石の位置を把握することによって,胃石落下によるイレウス症例であっても,内視鏡的治療によって外科手術を回避し得る可能性がある.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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