2019 Volume 61 Issue 9 Pages 1701-1711
【背景】罹病期間の長い潰瘍性大腸炎は大腸癌のリスク因子とされ,このような患者に対してはサーベイランス内視鏡が行われている.今回潰瘍性大腸炎関連腫瘍(大腸癌およびdysplasia)の発生率・リスク因子を明らかにするため解析を行った.
【方法】1979年から2014年の間に東京大学腫瘍外科でサーベイランス内視鏡を行った289人の潰瘍性大腸炎患者を対象とし,腫瘍の累積発生率およびそのリスク因子を調査した.腫瘍発生患者をサーベイランス群と非サーベイランス群に分類し,ステージと全生存率について解析した.
【結果】潰瘍性大腸炎発症後,10・20・30・40年後におけるdysplasiaの累積発生率は3.3・12.1・21.8・29.1%であり,大腸癌の累積発生率は0.7・3.2・5.2・5.2%であった.全大腸炎型では有意に腫瘍発生が多く見られた(P=0.015,hazard ratio,2.96).
【結論】東京大学腫瘍外科におけるサーベイランス内視鏡対象患者の腫瘍発生率およびリスク因子を明らかにした.全大腸炎型は腫瘍のリスク因子であった.
潰瘍性大腸炎(UC)の長期罹患患者については大腸腫瘍発生のリスク因子であることが知られている.われわれは2003年に,UC患者の大腸癌発生率がUC発症後10年で0.5%,20年で4.1%,30年で6.1%であることを報告している 1).サーベイランス内視鏡プログラムの有効性を示すための唯一の手段として,このようなコホート研究は重要であり,ほかにもいくつかの研究が発表されているが 2)~5),アジアにおけるコホート研究は未だ少ない.そこでわれわれは,前回の発表 1)から10年後のデータとして,今回の研究を行うこととした.
潰瘍性大腸炎関連腫瘍は,その非典型的な形態および背景粘膜の炎症性変化により,内視鏡的に同定することが難しい.そのため,大腸癌の前癌病変であり,かつ同時性に進行大腸癌が存在することのマーカーでもあるdysplasiaをいかに同定するかが重要である.ただBritish Society of Gastroenterology(BSG)のガイドライン 6)によると,low-grade dysplasiaのなかでその後進行するものの割合は報告によって3%から54%とさまざまであり 7)~9),このためlow-grade dysplasiaにどう対処するかは難しい問題となっている.
近年SCENIC International Consensus Statement 10)において,肉眼的に境界明瞭でかつ病理組織学的にも周囲にdysplasiaが存在しない腫瘍を示す単語として,“endoscopically resectable dysplastic lesion(ERDL)”が提唱された.SCENICは,American College of Gastroenterology(AGC)・European Crohnʼs and Colitis Organization(ECCO)・BSG 6),11),12)と同様に,内視鏡的に摘除可能と考えられる病変については,大腸全摘を追加するよりも内視鏡的経過観察を行うことを推奨している 10).しかしこのような推奨はエビデンスに乏しく,さらなる研究が必要と考えられる.われわれも前回の報告ではERDLに関するデータは発表していない.
われわれは1979年より東京大学医学部附属病院においてサーベイランス内視鏡プログラムを行っており,世界でも最も歴史の長い部類に入るものである 13).今回の報告では,われわれのサーベイランス内視鏡プログラムの有効性,および(1)UC関連腫瘍発生率,(2)UC関連腫瘍発症のリスク因子といったUC関連腫瘍の特徴を明らかにすることを目的として解析を行った.
1979年1月から2014年12月までの診療記録を元としてデータベースを作成した.この研究計画は東京大学大学院医学系研究科の倫理委員会で承認されている(審査番号3252-(1)).UC発症7年目以降で,モントリオール分類 14)における全大腸炎型(脾彎曲より近位まで炎症が進展)・左側大腸炎型(脾彎曲より遠位にとどまる)の症例を対象に年1回の内視鏡を推奨した.発症7年を経過するより数カ月早く内視鏡を開始した症例も対象とした.他院での内視鏡は対象外とした.
大腸亜全摘後で直腸が残存している症例についてもサーベイランス内視鏡を施行した 15).大腸全体に10cmおきに平坦粘膜よりランダム生検を行い,内視鏡的に異常が認められた部分からも生検を追加した.現在のSCENICのERDLの定義に合致する切除可能な病変については,内視鏡的に摘除の上で,周囲に腫瘍組織がないことを病理組織学的に確認した.このような病変は狭義の“dysplasia”とは区別し,今回の対象から外した.
色素内視鏡については,1990年代から2002年にかけては施行医によってS状結腸以遠および病変部に施行されていたが,2003年以降は同部位にルーチンにインジゴカルミンによる色素内視鏡を施行した.採取検体はホルマリンで固定されHE染色された上で,Inflammatory Bowel Disease/Dysplasia Morphology Study Group 16)による定義に従って大腸癌(CRC)・high-grade dysplasia(HGD)・low-grade dysplasia(LGD)・indefinite for dysplasia(IND)・negative for dysplasiaのいずれかに分類した.病理診断は東京大学医学部附属病院の病理専門医によって行われた.IND,LGD,HGDのいずれかと診断された場合には,3カ月以内に再検査が施行された.
フォローアップ大腸癌またはHGDと診断された患者に対しては大腸全摘を勧めた.LGDまたはINDと診断された患者に対しては内視鏡的フォローアップを継続した.LGDと継続して診断された場合や隆起を伴うLGD病変については多くは手術が施行された.複数のLGDを指摘された場合は3カ月以内に再検査を行い,確定診断となった場合は大腸全摘を勧めた.
統計学的解析統計学的解析にはJMP Pro 10(SAS Institute Inc, Cary, NC, USA)を用いた.腫瘍のステージの解析にはχ2乗検定およびマン・ホイットニーのU検定を用いた.大腸癌およびdysplasiaの累積発生率および全生存率についてはカプラン・マイヤー法を用いてログ・ランク検定を行った.腫瘍発生のリスク因子についてはコックスの比例ハザードモデルを用いた.P値0.05未満を統計学的有意とした.
1979年以降,538人のUC患者がサーベイランス内視鏡を施行された.直腸炎型,UC発症7年未満,他院で腫瘍を診断された症例は除外し,289人を解析対象とした.Table 1に289人の背景因子を示す.のべ2,276回の内視鏡が施行された(患者1人あたりの中央値5回,最小値1回,最大値35回).
サーベイランス内視鏡症例の臨床因子.
Dysplasiaを指摘された症例の経過をFigure 1に,臨床病理学的因子をTable 2に示す.のべ35個のdysplasiaあるいは浸潤癌が33人の患者に認められた.うち2人の患者には2個の同時性病変が認められた.6人の患者がランダム生検で病変を指摘され,うち1人が手術を施行された.35個中22個(60.6%)はNon-polypoid病変であった.
サーベイランス内視鏡症例の経過.
内視鏡で指摘された病変で最も異型度の高いものを使用.Ca=浸潤癌,HGD=high-grade dysplasia,LGD=low-grade dysplasia,NEG=negative for dysplasia.
サーベイランス内視鏡でdysplasia・大腸癌と診断された症例の臨床病理学的特徴.
25人が内視鏡でLGDを指摘され,うち5人は再検査で最終的にHGDと診断された.最終的にLGDと診断された症例のうち5人が手術を施行され,うち1人が浸潤癌,1人がHGDの術後診断となった.8人が内視鏡的に経過観察され,うち7人ではその後LGDは指摘されなかった.まとめると,LGDを指摘された25人のうち,最終的に6人がHGDと診断され,うち3人は術後に浸潤癌と診断された.
13人が内視鏡でHGDと診断されたが,うち5人は最初にLGDを指摘されて再検査の結果HGDの診断となった.12人が手術を施行され,7人が浸潤癌,5人がHGDの術後診断であった.1人は高齢のため内視鏡による経過観察を続けている.
ERDLを指摘された症例の経過をFigure 2に示す.のべ50個のERDLが30人に指摘され,うち1例は高異型度であった.14個(28.0%)のERDLは炎症範囲外に存在した.1人(3.3%)の患者はERDLを内視鏡的に切除した4年後にLGDを指摘され手術となった.
サーベイランス内視鏡で指摘されたendoscopically resectable dysplastic lesionsの経過.
Dysplasiaおよび大腸癌の累積発生率をFigure 3に示す.潰瘍性大腸炎発症後,10・20・30・40年後におけるdysplasiaの累積発生率は3.3・12.1・21.8・29.1%であり,大腸癌の累積発生率は0.7・3.2・5.2・5.2%であった.
潰瘍性大腸炎患者におけるdysplasia(点線)および浸潤癌(実線)未発生率(カプラン・マイヤー法).
UC関連腫瘍と診断された33人のうち17人に手術が施行され(サーベイランス群),うち8人が浸潤癌と診断された.研究期間中に他院でUC関連腫瘍と診断された16人が当科で手術を施行された.この16人は他院でサーベイランス内視鏡を受けておらず,腹痛や血便といった症状を契機に腫瘍が診断された(非サーベイランス群).まとめると,計33人のUC関連腫瘍患者に手術が施行された(サーベイランス群17人,非サーベイランス群16人).33人の臨床病理学的因子をTable 3に,UC発症から手術までの年数をFigure 4に示す.8人(24.2%)でUC発症から10年以内に腫瘍が発生していた.Dukes分類C/Dに相当する進行癌はすべてUC発症10年以降の症例であった.
手術を施行したdysplasia・浸潤癌症例の臨床病理学的特徴.
潰瘍性大腸炎発症から腫瘍診断までの期間.
Dysplasia/大腸癌発生のリスク因子を同定するために,コックスの比例ハザードモデルを用いて解析を行った.解析に用いた因子は性別,炎症範囲,UC発症年齢であり,これらはStolwijkら 17)の論文を元に決定された.全大腸炎型では左側大腸炎型と比べて腫瘍発生が有意に多く認められ(Table 4-a,P=0.035),多変量解析で炎症範囲が独立したリスク因子であると示された(Hazard Ratio(HR),2.957;P=0.015).LGDに限定すると,炎症範囲とUC発症年齢が独立したリスク因子であった(Table 4-b;HR 3.201,5.248;P=0.044,0.015).HGDと浸潤癌に限定するとリスク因子が同定できなかったが,症例数が少ないためと考えられる(Table 4-c,d).
潰瘍性大腸炎患者における潰瘍性大腸炎関連腫瘍発生のリスク因子.
腫瘍のステージとサーベイランスの関係をマン・ホイットニーのU検定を用いて調べた.2003年以降にサーベイランスを開始した症例では,Dukes分類Bの1例(20.0%)を除いてすべてdysplasiaの段階で腫瘍を指摘できていた一方で,2002年以前にサーベイランスを開始した症例では,12例中7例(58.3%)が浸潤癌であった(Figure 5,6).
サーベイランス群・非サーベイランス群間におけるdysplasia・浸潤癌ステージの比較.
2003年前後におけるdysplasia・浸潤癌ステージの比較.
カプラン・マイヤー法を用いて手術施行例の全生存率を調べた.Figure 7に示すとおり,サーベイランス群の浸潤癌8例は予後良好であった.
サーベイランス群(点線)・非サーベイランス群(実線)における浸潤癌症例の全生存率(カプラン・マイヤー法,P値はログ・ランク検定で計算).
われわれは東京大学医学部附属病院において36年にわたってサーベイランス内視鏡を行っている 13).前回は2003年にサーベイランス内視鏡についての報告をしており 1),今回はその続報となる.St Markʼs HospitalもUC関連癌の発生率に関する報告をしている 2),18).同病院ではこの10年間のHGD・浸潤癌発生率は2.1/1,000例・年であり,それ以前の10年間(4.6/1,000例・年)と比較して有意に減少していることを示した 2).メタアナリシスでもサーベイランス内視鏡やより厳格な炎症のコントロールによる効果がでている可能性が示唆されている 19).
本研究の1つ目の結果は,UC発症30年後のdysplasia発生率が27.0%(95%信頼区間(CI)22.5-31.4)であったことである.これはわれわれの前回の報告(15.6%,95%CI 6.4-24.8) 1)と比較すると有意ではないものの高い傾向にあった.ランダム生検で6例のdysplasiaが診断され,うち4例はわれわれが色素内視鏡を開始した2003年より以前の症例であった.ランダム生検は色素内視鏡が行われていなかった時代にdysplasiaを診断するのに役立っていたと考えられる.そのためわれわれは2003年前後の検出率についても検討を行った.2003年の前後で各1,147件,1,124件のサーベイランス内視鏡が施行され,各46病変(dysplasia・癌17病変,ERDL29病変),37病変(dysplasia・癌16病変,ERDL21病変)が指摘されていた.有意差は認められず,内視鏡の進歩による効果を直接示すことは今回できなかった.
Polypoid病変に対する対応は変化してきている.Polypoid病変は内視鏡的に完全切除ができれば手術を行わずに経過をみることができる可能性がある.LGDを発症した1例を除いてUC関連腫瘍の発生は認めなかったことが2つ目の結果である.メタアナリシスでも示されているとおり,内視鏡的完全切除は十分に安全な治療であることが示唆される 20).欧米各国のガイドラインでも 6),11),12),Polypoid病変が完全切除できて周囲や他の部位にdysplasiaが存在しなければポリペクトミーで対応することが可能とされている.しかし今回,多発病変の場合は内視鏡治療の適応とはしなかった.dysplasiaあるいは癌が炎症粘膜を背景とした“field effect”により視認されない可能性があるからである.このため,多発病変をもつ患者は大腸全摘の適応と考えられた.
ERDL 10)は従来の“sporadic adenoma”や“adenoma-like dysplasia”の概念を含む単語である.AGAはsporadicな腫瘍とUC関連腫瘍を区別するのに完璧な方法はないと述べているが,p53免疫染色は鑑別に有用であり一般的に用いられるようになってきている 21).われわれの研究で炎症範囲外に見られた14病変は理論的にsporadicと考えられる.今回,内視鏡的にはadenoma-likeではない,または辺縁不明瞭な病変は内視鏡的切除の適応とはしておらず,このためほとんどの病変はsporadicな病変と考えられる.また,この研究ではUC発症が30歳以上の群でLGD発生率が高かった.ERDLは解析対象から除外しているが,sporadicな病変が含まれている可能性もある.今回p53免疫染色は全例に施行されていなかったが,免疫染色を用いたさらなる検討が必要と考えられる.
3つ目はわれわれのサーベイランス内視鏡プログラムの有効性である.2003年以降われわれは,サーベイランス内視鏡を用いてUC関連腫瘍を早期の段階で診断してきた.現在,白色光内視鏡で視認された病変部,および腫瘍の好発部位であるS状結腸から直腸にかけてインジゴカルミンを散布している.BSGのガイドラインに比して不十分なプロトコルともとれるかもしれないが,2003年以降われわれが診断した病変はDukes分類Bの1人を除いてすべてdysplasiaの段階であった.さらに,LGDを指摘された25人中5人(20.0%)は3カ月以内の再検でHGDと診断されて手術を受けている.このことは生検結果が過小評価になっている可能性があり,LGDが指摘された場合には間隔をあけずに精査が必要であることを示唆している.ECCOガイドラインは2012年に改定がなされ 12),2つの重要な点を述べている.ひとつは,初回のサーベイランス内視鏡はUC発症後6-8年に施行されるべきだということであり,これは従来のガイドライン 11),22)より早い開始となっている.この部分の改定は,UC関連癌の22%はサーベイランス内視鏡開始以前に診断されているというLutgensらの報告に基づいている 23).もうひとつは,白色光下におけるランダム生検と狙撃生検の併用よりも,経験のある内視鏡医による色素内視鏡下での狙撃生検が推奨されていることである.しかし,われわれはランダム生検をまったく行わずにサーベイランス内視鏡を行うにはエビデンスが不足しており時期尚早と考えている.われわれの方法では10cmおきにランダム生検を行っており,これによりdysplasiaの存在が指摘された症例もあった.これはまた色素内視鏡でも指摘できない病変が存在することを示している.一方,サーベイランスの効率もまた重要な問題である.近年行われたランダム化比較試験では,専門医によるランダム生検と比較して狙撃生検の非劣性が証明されており,非炎症部のランダム生検は省略できる可能性があると述べられている 24).
この研究の限界として,まず症例数の少ないことが挙げられる.次に内視鏡医によって経験年数や資格が異なる点である.しかし,われわれのサーベイランス内視鏡プロトコルは経験の少ない内視鏡医が病変を検出するのをサポートできるものと考えている.ほかにも,患者の選定にバイアスがかかっている可能性がある.すなわち,炎症を繰り返す患者は当院のような大きい施設に紹介されることが多いため,腫瘍発生率が過大評価されている可能性があるということである.さらに,古い症例も扱っているため臨床的・内視鏡的な炎症所見などの詳細なデータが欠損していることがある.最後に,本研究は後ろ向きコホート研究であり,群分けが不適切であったりフォローアップが不十分である点が挙げられる.しかしながらサーベイランス内視鏡の有効性を示すには統一されたプログラムが行われる状況下でのコホート研究が必要であり,このため大規模試験が困難であるという問題がある.
要約すると,日本人患者を対象としたわれわれのサーベイランス内視鏡プログラムにおいて,UC関連腫瘍の発生率とリスク因子を明らかにした.全大腸炎型は腫瘍発生のリスク因子であった.
本論文内容に関連する著者の利益相反:T.W. は文部科学省科学研究費助成事業,および厚生労働省難治性疾患克服研究事業より助成を受けています.他著者について開示すべき利益相反はありません.