GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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TECHNICAL TIPS AND PITFALLS OF DUODENAL ENDOSCOPIC SUBMUCOSAL DISSECTION
Naohisa YAHAGI Motoki SASAKI
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2020 Volume 62 Issue 10 Pages 2300-2311

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要旨

非乳頭部十二指腸腫瘍は比較的稀な疾患であり,内視鏡治療を行う機会はそれ程多くない.しかし十二指腸はスコープの操作性が悪く筋層も薄いためESDの技術的ハードルや偶発症のリスクが極めて高い.したがって治療方針は,病変の性状とスコープの操作性や術者の技量を十分に検討して決定すべきである.十二指腸では粘膜下層が展開しないため著しくESDの難易度が高くなるが,Water Pressure Methodを用いることにより安定した手技が可能となった.そして後出血や遅発性穿孔などの重篤な偶発症を防止するために,切除創のしっかりとした縫縮が必要であるが,String Clip Suturing Methodにより大型の創部もしっかり縫縮できる様になった.また縫縮が不可能な場合には,ENBPDチューブによる外瘻化が極めて有用であることが判ってきた.十二指腸ESDは技術的難易度やリスクが高い手技であるが,この手技が必要となる大型の病変はそれ程多くはないことから,良好な治療成績をあげるためにも集約化して先進施設で治療を行うべきと考えられる.

Ⅰ はじめに

表在型非乳頭部十二指腸上皮性腫瘍(Superficial Non-ampullary Duodenal Epithelial Tumor:SNADET)は比較的稀な腫瘍であり,また長年経過観察してもほとんど変化のないものが多く,進行癌もほとんど見られないことから治療の必要性は乏しいものと考えられてきた.しかし,多くの症例を経験してみると腫瘍サイズが大きくなればなるほど担癌率が上がること 1,また経過観察中に腺腫から癌に変わり,結果的に粘膜下層に浸潤して転移した症例も見られていることから,われわれはより負担が少なく治療できるうちに内視鏡で切除するという方針を取っている.しかし十二指腸における内視鏡切除は技術的な難易度や偶発症のリスクが高いため,十分に症例を評価して適切な治療戦略を立てる必要がある.特に十二指腸におけるESD(Endoscopic Submucosal Dissection)は他臓器のESDとは全く趣を異にするものであり,その難易度もリスクも全く異次元のものであるため,食道や大腸のESDに慣れているというだけで気軽に行うべきではない.しかしもし行うのであれば,十分な技量を備えた術者が,リスクマネージメントしうる万全な実施体制のもとで行うべきである.

Ⅱ 治療に伴うリスクと求められる治療体制

十二指腸においては,スコープの操作性が悪いだけではなく壁が薄いことや局注しても良好な隆起が得られにくいことより,切開や剝離が極端に難しくなる場合が多い.また小血管でも動脈性の出血であれば直ぐに視野が不良となる場合が少なくなく,また不用意に止血すると筋層の熱損傷のために容易に穿孔してしまうことも問題点である.さらに穿孔部のクリップ閉鎖を試みても,筋層が極めて薄いためクリップの先端で筋層が裂けてしまいより大きな二次穿孔を来してしまう場合もある.一方で,胆汁や膵液が存在するために治療が成功裏に終わっても後出血や遅発性穿孔のリスクが極めて高く,適切な対応ができなければ致死的な偶発症に進展しかねない.ESDの黎明期には大腸ESDも危険過ぎるという多くの批判があったが,大腸の場合は致死的な偶発症に発展することはまずなく,手術になったとしても膵頭部十二指腸切除よりは遥かに侵襲が低いためあまり問題になることはなかった.しかし,十二指腸の場合には極めて重篤な偶発症が起こり得るため,より慎重な治療体制の構築が必要である.逆に言えば,下記の様な実施体制が整えられなければリスクマネージメントの観点から,十二指腸の治療は行うべきではない.

十二指腸の場合には操作性の悪さから予想以上に処置に時間がかかることがある上に,壁が薄く体動により処置具が目的の部位からズレてしまうと穿孔に繋がりかねないため,より安定した治療環境を確保する必要がありデクスメデトメジン鎮静もしくは全身麻酔をかけられる体制が必要である.また切除創が大きくなる場合には,遅発性偶発症を可能な限り低減するために創部を完全に縫縮する必要がある.しかし,万が一縫縮できない場合や十二指腸乳頭部を含む病変を切除した場合にはENBPD(Endoscopic Naso Biliary and Pancreatic Drainage)チューブの挿入が必須であることから,熟練した胆膵内視鏡医の協力体制が必要である.さらに穿孔部から出血して閉じ切れない場合や,遅発性穿孔を来した場合には速やかに膵頭部十二指腸切除を含めた外科手術が必要となる場合があるため,胆膵外科の専門チームのバックアップ体制が必須である.

Ⅲ 十二指腸ESDの適応と症例選択のための術前チェック

十二指腸ESDの適応は明確に定まったものはないが,われわれは粘膜内癌あるいは粘膜内癌が疑われる病変で,通常のEMRなどでは完全切除が難しい病変,および術前の生検や前治療などの影響でEMRでは切除不可能な病変をESDの適応としている.

病変の質的診断に関しては,残念ながら確立した診断基準は存在しない.形態的に大腸腫瘍と類似している様に見えても,大腸で培われてきた診断学は通用せずまだ一定の見解は定まっていないため,粘膜内癌やSM癌を的確に診断することは不可能である.また,残念ながら十二指腸における生検は,正診率が低い上に生検瘢痕が内視鏡治療の妨げとなるため推奨されない 2

実際の治療方針決定のためには,大きさや形態以外にも瘢痕の有無や,周在における主座(内側,外側,腹側,背側),主乳頭や副乳頭との位置関係,ヒダや屈曲部にかかっていないかなどを詳細にチェックする必要がある.さらにスコープの操作性をチェックする際には,動きがパラドキシカルにならないか,プッシュした場合とプルでストレッチした場合の操作性や病変部位の変位状況,特に病変の肛門側にアプローチして辺縁が視認できるかどうか,腫瘍の全周をトレース可能かどうかなどを十分に検討する必要がある.

Ⅳ 十二指腸の状況に応じた工夫とESDに必要な器材

十二指腸の筋層はフラットであるが,キルクリング襞が存在するため局注しても襞の隙間で拡散してしまい大腸の様に良好な膨隆を形成・維持できない上に,局注しても粘膜がピンと張った状態にならないため,切開しても切開創が開かず粘膜下層が展開しないことが十二指腸ESDを難しくする最大の要因である.当然ながら粘膜下層を展開するためにブラインドで剝離したり,フードを押し付け過ぎたりすれば穿孔のリスクが高くなる.この困難な状況を克服するためにわれわれはWater pressure method 3を開発したが,これにより十二指腸においても問題なく粘膜下層を展開し,ほぼ確実にフードごと粘膜下層に入り込み安定した状況を作り出せる様になった.

十二指腸ESDに使用している器材をTable 1に示すが,スコープは送水機能と3.2mmの鉗子孔を持ち,かつSTフード(富士フイルム,日本)を装着した際に鉗子孔から処置具がスムースに出し入れできることを条件として選択している.STフード装着の際には予め鉗子孔から処置具を出しておき,フードのスリットの位置を合わせて処置具がスムースに出し入れできる位置で,フードをビニールテープで固定する.固定後にフードの汚れを防止するために綿棒でレンズクリーナーを満遍なく塗ったら,スコープは準備完了である(Figure 1).送水ボトルには,処置の際に通電性を保つために蒸留水ではなく必ず生理食塩水を入れる必要がある.またDual knife J(オリンパス,日本)は食道や大腸のESDと同様に1.5mmのもの(Figure 2)を使用し,グルセオールTMまたは生理食塩水に少量のインジゴカルミンを加えたものをナイフ局注液として用いるが,安定して使用するためにナイフに接続したチューブから完全に気泡を抜いておくことも重要である.

Table 1 

十二指腸ESDの使用機材.

Figure 1 

ST hood の装着と準備.

a:まず鉗子孔から処置具を出しておく.

b:鉗子孔の位置にSTフードのスリットを合わせて装着する.

c:処置具がスムースに出し入れできることを確認してから,ビニールテープでフードを固定する.

d:曇り止めを付けた綿棒でフードを拭う.

e:フード内部も満遍なく拭っておく.

f:処置具を鉗子孔から抜いて準備完了.

Figure 2 

Dual knife J(1.5mm KD-655Q,Olympus, Japan).

食道や大腸と同様に,追加局注が可能な1.5mmのDual knife Jを用いることにより,スムースな処置が可能である.

Ⅴ 高周波電源の選択とその設定

十二指腸ESDは非常にデリケートな処置であるため,繊細な操作が要求される.その意味で,様々なモードが選択できより細かな設定が可能なVIO 300DもしくはVIO 3(いずれもエルベ,ドイツ)を使用している.具体的な設定値をTable 2に示すが,Water Pressure Methodの場合は基本的に水浸下での処置になるため,金属の露出部分の多いHook knife(オリンパス,日本)やCoagrasper(オリンパス,日本)は通常の設定では使用できないが,露出部が少ないDual knife Jは通常設定のままで使用が可能である.Hook knifeは厳しい瘢痕などの特殊な場合のみ使用するが,切開および剝離はエンドカット,血管シーリングは通常の送気下での剝離時に用いるSwift coag. で行うと丁度良い.Coagrasperを使用するのは拍動性のなかなか止まらない出血の場合のみであるが,使用時には水分を吸引して送気してから使用する必要がある.

Table 2 

高周波発生装置の設定.

Ⅵ 十二指腸ESD手技の実際

Water Pressure Methodのコツと注意点

Water Pressure Methodではスタンダードな先端の長いSTフードを使用するため,そのままでは視野不良となってしまうが,処置の際には管腔を完全に生理食塩水で満たすため,ハレーションが無くなり拡大視効果で対象が近接して見えるため視野は良好である 3.しかし近接すると全体像の把握が困難となるため,術前に管腔内での病変の位置関係や操作性を十分に確認しておく必要があり,さらに必要に応じて時折スコープを引いて病変の辺縁を確認する必要がある.

粘膜下層の展開と視野の確保のためにアクティブに送水圧を利用するのがWater Pressure Methodであるため,剝離前や出血のために視野が不良になった際にはこまめに送水するが,長時間処置を続けると胃内が充満して逆流した生食により誤嚥してしまう場合があるため,時折胃内の貯留液を十分に吸引する必要がある.また病変サイズが大きい場合や出血を繰り返す場合などには,5リットル以上の送水を行うこともあるため,生食のボトルが空にならないうちに随時補充することが重要である.ボトルが空になり送水チューブ内に気泡が入ると送水時にバブルが発生するため,状況を見て早めに補充する様にする.コアグラスパー使用時や重力で粘膜下層を大きく展開できる場合にのみ,送気して処置を行う.

マーキング

大腸と同様に,通常はマーキングの必要はない.しかし稀に境界が不明瞭な場合があるため,不明瞭な部分のみ色素散布後あるいはNBI拡大下にマーキングを行うことがある(Figure 3).その際は閉じたナイフ先端をしっかり接地させ,Soft凝固(VIO 300D:effect 5,50W,VIO 3:effect 6.0)でマーキングする.粘膜の薄い十二指腸では,強い出力でマーキングすると粘膜を破壊して局注液が漏れてしまうため,注意が必要である.

Figure 3 

マーキングを行った境界不明瞭な病変.

十二指腸球部の境界不明瞭な扁平隆起性病変(左).ナイフ先端でSoft coag. を用いてマーキング(口側辺縁にダブルマーク)を行った(右).この病変は胃型腺癌であった.

局注

他臓器とは異なり,十二指腸においては前述の様な理由により局注しても良好な隆起が得られづらい.また不用意に多く局注してしまうと,予定外の部分が膨らんで視野や操作性が妨げられてしまうため,最初に大量局注することは勧められない.切開予定部位にのみ局注を行い,部分的な隆起を形成したら直ちに切開と初期剝離を行い,確実に切開縁が開いたら次の場所へ移動する.十二指腸は筋層が薄く針が突き抜け易いため,最初の穿刺はキルクリング襞の部分に行い,隆起が得られた部分に局注を追加していく様にするとスムースである.局注液はグリセオールTMにインジゴカルミンを加えてブルーに着色したものを,ニードル局注だけでなくナイフ局注にも用いている.また線維化の厳しい症例や,屈曲のために安全域が狭い症例などでは,より安全に処置を行うためにムコアップTMあるいはリフタルKTMを用いるが,その際に局注液の違いが直ぐに視認できる様に意図的にインジゴカルミンを増やしてより濃いブルーの局注液を用いている(Figure 4).

Figure 4 

ムコアップ使用例.

軽度の線維化もあり,剝離ラインの視認性が不良であった(左).インジゴカルミンで濃い目に着色したムコアップTMを局注すると,筋層と粘膜下層が綺麗に分離され剝離ラインが明瞭となった(右).

切開

以前は極力局注液の流出を防ぐ目的で,まず口側から部分切開を行い直ちに剝離を追加して粘膜下ポケットを形成する様に心掛けていた.しかし,Water Pressure Methodによりいつでも粘膜下層にアプローチできる様になったため,最近ではまず肛門側および両側辺縁の切開を行う様にしている.特に5cmを超える様な大型病変においては,剝離してしまうと肛門側へのアプローチが極めて困難になる場合があるため,最初に肛門側と両サイドにおける剝離のエンドポイントを決めておくことが重要である.切開はDry cutまたはEndo cut Iを用いて行うが,白いセラミックチップがきちんと粘膜に接地しており,なおかつ隆起を押し潰していないことが重要である(Figure 5).さらに部分切開を行った都度に,切開創内縁をSwift coag. でなぞってしっかりと切開創を開いておくことも重要である.エンドポイントが決まった時点で口側に多めに局注を打ち,口側から一気に切開と剝離を行っていくことでスムースな処置が可能となる.

Figure 5 

切開時のナイフ接地状況.

局注による隆起が押し潰されない状態で,白いセラミックチップが粘膜表面にきちんと接地し,金属のナイフ先端のみが粘膜下層に入っていることが理想的な接地状態と言える.

剝離

十二指腸では剝離時に如何に安全に粘膜下層に入り込むかが重要であり,口側の部分切開を行った直後に送水し,水圧で切開創が開いてブルーの粘膜下層が見えたら,その部分にナイフを当ててSwift coag. で筋層に向かわぬ様に安全な方向へ剝離していく(Figure 6).軽いアングル操作と手首の捻りで十分に方向のコントロールは可能であり,スコープを大きく動かす必要は全くない.2-3回剝離を繰り返すとフード先端で十分に粘膜下層に入れるスペースが形成される.粘膜下層に十分な局注液があればそのまま剝離を続け,もし局注液が足りなければナイフ局注を追加して剝離を継続する.十二指腸は筋層が薄く,触れたまま通電すると一瞬にして穿孔するため,より視認性を良くするために通常よりも少し濃い目にインジゴカルミンで着色すると安心感がある.剝離中には気泡が発生するため,視野を確保するためにこまめに送水して視野を確保しながら剝離を行う.もし気泡が多過ぎて気になる場合には剝離にもEndoCut Iを使用して構わないが,非常に良く切れるため剝離の方向を良く見定め,筋層や血管を傷付けないことが重要である.

Figure 6 

Water Pressure Methodでの剝離.

切開創に生食を持続的に送水すると,水圧により切開創が開いて局注液の入った粘膜下層が視認できるようになる(左).直視下で2-3回剝離すると,創部が大きく開いて粘膜下層に入り込める様になる(右).

血管処理と出血対策

剝離中に細い血管が見られた場合には,Table 2の止血モードを用いて閉じたナイフ先端でプレ凝固する(Figure 7-a).一方,ナイフの金属シャフト(0.3mm)より太い血管の場合には,低出力のフォースド凝固を用いて開いたナイフのシャフト部分でプレ凝固を行ってから剝離する(Figure 7-b).

Figure 7 

血管に対するナイフによる凝固処理.

a:小血管や小出血の場合には,閉じたナイフの先端で血管に軽くタッチし,VIO 300Dの場合は剝離と同じSwift coag. で,VIO 3の場合にはSpray coga. で極短時間のみ凝固する.

b:太い血管の場合には,ナイフを開いたままブレードで血管を引掛けて,低出力のForced coag. で凝固処理する.

切開または剝離中に出血してしまった場合には,まず送水して出血源を確認することが重要である.細い血管で粘膜下組織が十分に残っている部位であれば,ナイフ先端での凝固止血で十分対応可能である.閉じたナイフの中心部で軽く血管端に接触して,止血モードで数回通電すれば問題なく止血処置が可能である.しかし,露出した筋層の隙間からの出血や,太い血管からの拍動性の出血の場合には,コアグラスパーを用いる.送水しながら出血点を確認して,フード先端で軽く圧迫して一時止血している間に,水を吸引してコアグラスパーを挿入する.送気してコアグラスパーで確実に血管端を把持したところで,慎重に通電する.十二指腸の場合は,止血部が自然に裂けて穿孔に繋がることも少なくないため(Figure 8),止血の前後には細心の注意を払う必要がある.

Figure 8 

止血後の穿孔.

筋層表面で止血処置した部位が自然に裂けて穿孔したため,クリッピングしたところクリップで筋層が裂けた(左).ストレートフードに交換して再度スコープを挿入したところ,裂創はさらに拡大して大穿孔となっていた(右).

Ⅶ 切除後の創部処置

十二指腸球部においては縫縮の必要はないが,下行部以深では強力な消化液が存在するため順調に切除が終了しても後出血や遅発性穿孔のリスクが極めて高く,創部を確実に縫縮するか,縫縮が不可能な場合には膵・胆管の外瘻化が必要である.かなり大きな切除創であっても,あるいは術中に穿孔を来した場合であっても,創部を完全に縫縮できた場合には術後の経過は良好である 4.一方で何らかの理由で縫縮できなかった場合や,遅発性穿孔を来した場合でも,速やかにENBPDで外瘻化することにより保存的治療が可能になる 5

String Clip Suturing Methodによる縫縮の実際

クリップでは縫縮できるサイズやその強度に限界があることから,われわれはString Clip Suturing Method 6),7を開発した.この方法では,糸を引くことによりアプローチの角度が変わりより強固にクリッピングが可能なことや,慣れればかなり大きな切除層でも縫縮可能であるため,極めて有用な縫縮法である.

まず術者は先端フードを通常のストレートフードに変えて,管腔内の生食やCO2ガスを出来る限り吸引して十二指腸の緊張を取っておく.その間に介助者が,装着したショートクリップの先端に1.5m程度に切った0-4号縫合糸(テトロンブレード縫合糸,100m巻き糸,夏目製作所)を結び付ける.糸と共にクリップ装置を鉗子孔から挿入する.鉗子孔の中で糸が干渉しない様にするため少なくとも3.2mm以上の鉗子孔が必要である.クリップを慎重に開いたら,糸の付いた方を下側に向け創部の肛門側に近づく.意図的に筋層の一部と辺縁粘膜をクリップで捉えて,脱気して筋層の緊張を取った状態でクリップを閉じてリリースする.クリップ装置を抜くと糸のみが鉗子孔に残った状態になるので,鉗子孔から出た糸をスコープを握っている左手の小指に巻き付け固定して,そのまま次のショートクリップを挿入する.スコープの目の前(装置を出し過ぎて引き戻すと糸も一緒に引っ張られるため注意)でクリップを開いて糸を挟み込むように捉えたら,口側の辺縁で同様に筋層の一部と粘膜を捉えて,脱気後に閉じてリリースする.次にロングクリップをスコープから僅かに出る位置まで挿入して,目の前で縦方向に開いて手前のクリップの直ぐ脇の粘膜に接地させ,小指で糸を引きながら少しずつ脱気して創部を引き寄せて,両端が寄ったところをクリップで押さえこみながら閉じてリリースする.この最初の一発目のクリップが最も重要であり,粘膜と筋層を一緒にクリップに挟み込むイメージでクリッピングする.次のクリップで同様に反対側を閉じた後に,両側に順次クリップを追加していくが,その際に糸による牽引と脱気を併用することにより,筋層も噛んだ状態での強固な縫縮が可能になる(Figure 9).創部のサイズが大きくとも,複数の糸付クリップを用いたり,ショートクリップで糸を創の中間部で直接筋層に固定することにより十分に縫縮が可能であり,以前では手術しか選択肢のなかった様な症例でも内視鏡的にマネージメント可能となった(Figure 10).しかし綺麗に縫縮するためには,クリップを出す前に鉗子孔の位置を目的の部位に合わせたり,クリップを出し過ぎないようにするなどのコツがあり,十分な習熟が必要である.

Figure 9 

String Clip Suturing Methodによる創部の完全縫縮.

a:ショートクリップをセットし,シースからクリップを一部だけ出しておく.

b:クリップに1.5mm程度に切った縫合糸を結び付け,余分な糸をカットする.

c:糸の最後にクリップのカセットを結び付けておくと扱いやすい.

d:セットした糸と一緒にクリップ装置を鉗子孔から挿入する.

e:可能な限り創部を6時方向に持ってきて肛門側にアプローチする.

f:糸の付いたクリップで意図的に筋層の一部と肛門側辺縁の粘膜を噛む.

g:糸の口側を次のショートクリップで捉えて,口側辺縁にアプローチする.

h:同様に筋層の一部と粘膜を噛んで口側に固定する.

i:ロングクリップを糸の直ぐ隣で開いて,縦にしたクリップを粘膜に接地させ,ゆっくりと糸を引きつつ脱気して筋層ごと創部を引き寄せる.

j:両側の粘膜と筋層をまとめてクリップで閉じる.

k:糸を引きながらクリップを追加していき,両サイドに2本程度ずつクリップを追加したら,ハサミ鉗子で糸を切断する.

l:必要に応じて,糸付クリップを追加しながら創部を完全に縫縮する.

Figure 10 

ESDによる大型病変の治療例.

下十二指腸角から十二指腸水平部にかけて,約3/4周を占め5ヒダを超える巨大病変が認められた.Water Pressure Methodで切除し,巨大な切除創は糸を中間部で筋層に直接止めながら4箇所で寄せて,String Clip Suturing Methodで完全に縫縮した.切除サイズは105×64mmで,病理組織は “Tubular adenocarcinoma,0-Ⅱa,100×59mm,tub1,pTis,ly0,v0,pHM0,pVM0” で治癒切除であった.

ENBPDチューブによる外瘻化

縫縮は極めて有用な偶発症予防策であるが,内側壁ではクリップが脱落し縫縮が困難であることが多く,さらに主乳頭を含んで切除した場合には縫縮不可能である.また,穿孔して慌ててクリッピングした場合なども,最初のクリップが邪魔をして完全な縫縮が難しくなる場合がある.その様な際には,ENBDおよびENPDチューブによる一時的な外瘻化が極めて有効である.創部の位置に留意して,潰瘍底を損傷しない様に側視鏡を挿入し,極力送気しない様にしながらガイドワイアを挿入してENBPDチューブを留置する(Figure 11).炎症反応の推移を見ながら飲水や食事を開始し,順調であれば5日程度でチューブを抜去し退院とする.

Figure 11 

ENBPDチューブによる外瘻化.

主乳頭を含んだ病変をWater Pressure Methodで一括切除した後に,狭窄を防ぐために部分縫縮し,最後にENBDおよびENPDチューブを挿入した(左).経過良好であり,1週間後に創部の状態を確認し(左),チューブを抜去した.

Ⅷ おわりに

十二指腸ESDは技術的なハードルやリスクの高さを考えると,他部位のESDとは全く異次元のものである 8),9.しかしESDは膵頭部十二指腸切除を回避するためにはなくてはならない切り札として位置付けられるため,リスクが高いからと言って葬り去るべき手技ではない.問題点は残っているものの,既に先進施設においては様々な工夫のもとに積極的に治療が行われ,不要な手術を回避するのに十分な治療成績をあげられる様になってきた 8.幸い疾患の頻度からするとESDが必要となる大型の表在型非乳頭部十二指腸腫瘍は決して多くはないはずであり,年間数例しか症例数のない施設でこわごわとESDをやる必要はなく,十分な経験と実績のある専門施設で集約化すべき領域と考えられる.術前精査の段階で自施設での治療が困難と判断されれば,積極的に治療が可能な施設へ紹介すべきであろう.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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