2020 年 62 巻 11 号 p. 2931-2939
本邦の食道癌の9割は扁平上皮癌であり,欧米と比しより早い病期で発見されている.Ⅰ期食道癌のうち,粘膜内癌には内視鏡的粘膜切除術(ER)が適応だが,粘膜下層浸潤癌や粘膜筋板までとどまっていてもリンパ管・静脈への浸潤がある場合はリンパ節転移の可能性があり,外科切除や化学放射線療法(CRT)が必要である.しかし,外科切除は食道切除および再建による大きな侵襲や合併症が無視できず,CRTでも外科切除に比し局所制御が不良であるとの問題点がある.食道表在癌に対して先に内視鏡切除を行い,病理組織学的診断に基づいてリンパ節転移の危険性を判断し,その後の追加治療(経過観察または選択的にCRTを追加する)を考慮する治療戦略は,臓器温存や個別化治療の点から有望と考えられ,後ろ向き解析や前向き臨床試験でその安全性と有効性が評価された.今後は追加CRTを行った症例での再発の危険因子の検討や,治療前内視鏡診断の精度向上などが課題である.