抄録
症例は74歳の男性で脳梗塞後遺症,高血圧で通院中の患者である.胃部不快感を訴えたため,昭和86年9月16日胃内視鏡を施行した.検査前の状態はいつもと変りなく,狭心症,心筋梗塞を思わせる労作時,安静時の胸痛はなかった.前処置(ガスコンドロップ,キシロカイン,コリオパン)を通常どうり施行し,内視鏡は10分で終了した.終了後,休息させておいたところ約18分後に心,呼吸停止をきたした.心肺蘇生に成功し,その後の心電図および血清酵素の推移から急性心筋梗塞と診断された.本症例は合併症もなく退院した.本症例においては,内視鏡検査という負荷が急性心筋梗塞を発症せしめたと考えられた.内視鏡検査後に突然死を起したとの報告は散見されるが,その際の突然死の原因は不明なものばかりである.本症例のごとく救命され,心,呼吸停止の原因が急性心筋梗塞であったという報告はなく,非常に稀な症例と考え報告した.