2008 年 23 巻 p. 109-130
米国の上場変更企業がPost-Listing Negative Driftを示すのに対し,日本ではPost-Listing Positive Driftが発生していることが,岡田/山﨑[2005]で指摘されている.しかし,これをもって日本の経営者にManagers Opportunismはないと断言する証拠としては十分ではない.そこで本稿では,会計学の領域で扱われる裁量的会計発生高の概念を援用し,それを時系列で観察することで日本の上場変更企業経営者のManagers Opportunismの有無を検証することにした.その結果,経営者は上場変更前から利益増加型の利益調整を行い,上場変更以降もそれを継続していることが明らかとなった.また上場変更前後の多くの年で,規模,簿価・時価比率,上場変更直近の裁量的会計発生高の3つの基準で選択したコントロールファームと比較しても利益増加型の利益調整を行っている証拠が発見された.日本におけるManagers Opportunismの存在が確認されたのである.さらに,裁量的会計発生高と超過リターンの関係について調査してみた結果,Post-Listing Returnおいても有意にコントロールファームを上回ることが確認された.米国とは対称的なPost-Listing Positive Driftを示す背景には,上場変更企業経営者の継続的な利益調整行動が関係している可能性が高い.