ジェンダー史学
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論文
日本占領をジェンダー視点で問い直す
──日米合作の性政策と女性の分断──
平井 和子
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2014 年 10 巻 p. 5-16

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抄録

2001 年の「9.11 事件」に端を発する、対イラク戦争開始に当たって、ジョージ・W・ブッシュ大統領は、過去の数ある占領の中から、民主化の成功例として「日本モデル」を取り出して、占領を正当化しようとした。攻撃に際しては、「女性解放のため」という理由が付け加えられた。これを、わたしは日本の女性史研究が大きく問われていると受け止めた。
アメリカによる日本占領をひとたび、敗者‐勝者の男性間で取引された女性たち(占領軍兵士へ「慰安」の提供をさせられた売春女性たち)の体験から見直せば、軍事占領と女性解放を安直につなげることの矛盾は明らかである。具体的にいえば、敗戦直後、日本政府によってつくられたRAA(Recreation and Amusement Association)などの占領軍「慰安所」や、冷戦期に激化した基地売春下で、女性たちが強いられた性管理の実態は、日米合作による軍隊維持のための組織的性暴力であった。
さらに、売春禁止運動を担った廃娼運動家や女性国会議員・地域婦人会の女性たちと、売春女性たちの間には大きな分断があり、これが米兵の買春行為と矛盾しない売春防止法を生み出す要因の一つとなった。つまり、二分化された女性たちの対立と反目が、結果として軍事化(日米安保体制・軍事基地)を支えることにつながった。ここに、女性を、「護られる女性=『良家の子女』」と、売春女性(「転落女性」「特殊婦人」)に二分化する男性中心的な「策略」の罠がある。米兵の買春行為の激しさは、朝鮮戦争勃発とリンクする。そのため、軍事組織は売春女性を「活用」して、兵士の性をこそコントロールする必要があったのである。

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© 2014 本論文著者
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