ジェンダー史学
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研究ノート
「からゆき」渡航幇助者のジェンダーと役割の一考察
─「密航婦」記事を手がかりにして─
嶽本 新奈
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2011 年 7 巻 p. 43-53

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抄録

開国以降に海外へ出稼ぎに行った女性たちを「からゆき」と総称するが、「からゆき」の渡航に際してどのような人間が関わっていたのかを当時の九州メディアである『福岡日日新聞』、『門司新報』、『東洋日の出新聞』3紙を用い、主に「密航婦」検挙に関する記事から渡航幇助者を抽出したうえでジェンダーと役割を検討した。その結果、渡航幇助者の多面的なネットワークと、そこでの男女の役割の異同が明らかになったが、まず、渡航幇助の役割上では周旋業と国外就航船乗船までの宿泊場所提供に関しては男女の別なくどちらも役割を担っていた。一方、ジェンダー的役割に注目すると、「からゆきさんあがりの誘拐者」が自分の身をもって経済的に「成功」した実例とすることで渡航を促す役回りであったり、奉公口探しは主に同郷出身の同性に依頼するという縁故利用の習慣によって、女性という〈性〉が機能する役割があったことを確認できた。こうした属性は個々に独立したものではなく重なることもあり、女性たちが〈出稼ぎ〉目的の渡航をする際のネットワークの端緒にこのようなジェンダー的役割が組み込まれていたからこそ、数多くの女性たちが海を渡っていったといえる。
このことは誘拐者とは男性であり加害者であり、「からゆき」とは女性であり被害者であるといった一面的な捉え方を排すが、同時に、女性がいかなる役回りで渡航幇助に関わっていたのかを見極める必要がある。女性もある種の加害性を帯びているのかに関しては、紙面の都合上、表象レベルにおいて新聞報道が男性幇助者と女性幇助者とでは異なり、とりわけ「からゆきさんあがりの誘拐者」は自身の過去を別の密航婦に引き継ぎしているに過ぎない受動的な主体として表象されており、その点で女性は女性の抑圧者になりきれていないことを指摘するに留めておく。

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© 2011 本論文著者
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