言語研究
Online ISSN : 2185-6710
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特集 生成文法――移動現象をめぐって――
広東語倒置文における脱焦点化
李 梓明
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2017 年 152 巻 p. 59-87

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抄録

本論文では,広東語には,文中の要素を終助詞の後に移動させることによって「デフォーカス」を表すような倒置文が存在することを主張する。このようなタイプの倒置文は「脱焦点化」という機能を持つと考えられる。また,統語的な特徴としては,局所性条件と長距離依存関係が見られる。したがって,「デフォーカス」は統語領域の左端へのA’-移動と考えることができる。この構文は,二つの操作によって派生されうる。一つ目は脱焦点化によるA’-移動である。デフォーカスした要素は,左端にあるDefocus Phrase(終助詞より低い最大投射)の指定部に移動する。二つ目は残余要素であるTPの移動である。残余要素TPはFocus Phrase(終助詞より高い最大投射)の指定部に移動する。この残余移動は焦点化と見なすことができる。この提案は,Cheung(2005)が提案したDislocation Focus Constructionを補足するもので,今まで扱っていない倒置文を分析することによって,広東語の倒置文の全貌を捉えることが可能となる。最後に,動詞を対象としている倒置文は,Matushansky(2006)が提案した統語的な「主要部から指定部への移動」の一例であると主張する。

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© 日本言語学会, 著者
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