言語研究
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ウォロフ語の母音
梶 茂樹
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1997 年 1997 巻 112 号 p. 33-65

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抄録

ウォロフ語は,セネガルのほぼ唯一の国語であり,アフリカではよく研究されている言語の一つである.ローマ字をベースにした正書法も決まり,少なくとも音韻に関しては一見,なんの問題もないかのようである.しかし筆者は,現地での調査において,新たに4つの短母音と4つの長母音を発見した.
ウォロフ語では,いわゆるATR(Advanced Tongue Root)が重要な役割を果すのであるが(ここでは+ATR母音は'で記す),これが今まで十分理解されてこなかったのが,第1の原因である.現在の正書法で区別されているのはé(=/e/)とe(=/ε/),そしてσ(=/0/)とo(=/_??_/)およびその長母音の中高母音に関してのみである.これらは,フランス語にも似た対立があることから,実際は±ATRによる区別であるにもかかわらず,口の開口度(あるいは舌の高さ)の問題と見てしまったのである.ウォロフ語の科学的研究の端緒をつけたと言われるフランス人の記述が誤っていたにもかかわらず,セネガル人研究者が代々受け継いできたのである.

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