言語研究
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個体レヴェル述語としての英語の「異常受身」
影山 太郎浦 啓之
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2002 年 2002 巻 122 号 p. 181-199

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抄録

英語でThis cup has been drunk beer out of.のように動詞によって統率されていない前置詞句内部から受身化が起っている受身文は,これまでBolinger(1975)や Takami(1992)など機能論的な観点からしか分析されていない.本稿では,この種の受身文がどのような時に適切となるのかを形式意味論的に考察し,その適応条件を統語論的に説明する分析を示唆する.
まず,これまでの研究で不明瞭だった「擬似受身」(He was laughed at by Mary.のように動詞と前置詞が統率により「再分析」される場合)と「異常受身」(This cup has been drunk beer out of.のように付加詞から受身化が起こる場合)の統語的な違いを明確i化する.次に,後者の異常受身が,Kratzer (1995),Diesing(1992)の言う個体レヴェル述語に該当することを,(1)点的な時間副詞と共起しない,(2)独立分詞構文で条件節の解釈を持たない,(3)知覚動詞の補文に入らないという観察から立証する.更に,この意味的性質を反映する統語構造を示唆し,異常受身が名詞句移動によって派生されるのではなく,もともと基底生成された主語を取ることを述べる.これにより,従来,「特徴づけ」などの曖昧な名称で呼ばれていた機能が統語構造から導き出されることになる。

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