日本地球化学会年会要旨集
2008年度日本地球化学会第55回年会講演要旨集
セッションID: 1B19 10-08
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地震発生素過程、断層帯・活断層の化学、地震活動に関連した化学観測
台湾チェルンプ断層掘削計画Hole B掘削コア試料中の黒色断層ガウジ帯のESR分析
*福地 龍郎田中 大地松原 拓穂徐 垣宋 聖榮
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抄録

台湾チェルンプ断層掘削計画(TCDP)で採取されたHole B掘削コアでは,深度1136m付近,1194m付近及び1243m付近にそれぞれ断層ガウジ帯が確認されており(Hirono et al., 2007), この内,1136m付近の断層ガウジ帯が1999年の集集地震発生時に活動した可能性が高いと考えられている(Lin et al., 2008)。これらの断層ガウジ帯にはそれぞれ黒色化した高磁化率の部分があり,高温の断層摩擦熱により鉄含有鉱物が分解して磁性鉱物が新たに生成されたためであると推定されている (Mishima et al., 2006; Hirono et al., 2007)。一方,CO2電量分析により黒色ガウジ帯では無機炭素濃度が減少していることが明らかになっており,断層摩擦熱により方解石(CaCO3)などの炭酸塩鉱物が分解したためであると考えられている(Ikehara et al., 2007)。そこで今回,黒色ガウジ帯の摩擦熱による影響の程度を調べるために,ESR(電子スピン共鳴)による分析を実施した。1136m断層ガウジ帯では,ESR測定の結果,フェリ磁性鉱物(マグヘマイト,他)起源のフェリ磁性共鳴(FMR)信号(g=2.1付近),有機物起源と考えられる常磁性有機ラジカルの信号(g=2.0031~2.0036),石英中の酸素空孔起源の常磁性信号であるE’中心(g=2.001)の他,常磁性不純物であるFe3+イオン及びMn2+イオンの信号が検出された。この内,ガウジ帯中央部の黒色部分では,磁気分析結果からの予想に反して,周辺部に比べてFMR信号強度がずっと低いことが明らかとなった。また,石英のE’中心は著しく強度が減少しており,有機ラジカルも幾分減少していた。さらに,Mn2+イオンの信号はほとんど消滅しており,Fe3+イオンの信号は周辺部分とそれ程変わらないという結果が得られた。1194m及び1243mガウジ帯でも1136m ガウジ帯と同様の結果が得られた。1136m黒色ガウジ帯では低いFMR信号強度が得られ,加熱実験結果を考慮すると最近の地震活動時における摩擦熱温度は(被熱時間にも依存するが)せいぜい350℃程度までしか上昇しなかったと推定される。また,より酸化的な環境でガウジ中に生成するレピドクロサイト(gamma-FeOOH)は摩擦熱による脱水反応でマグヘマイト(gamma-Fe2O3)に変化するが,熱水中ではマグヘマイトがヘマタイト(alpha-Fe2O3)に変態する温度が著しく減少することが判明しており(Swaddle & Oltmann, 1980),マグヘマイト生成後に熱水による影響を被った可能性がある。黒色ガウジ帯が酸化的環境であったことは,Fe3+イオンの信号が検出されることからも予想される。一方,Mn2+イオンの信号は方解石からしばしば検出されるが,これは還元的な環境の下で結晶中にMn2+イオンが閉じ込められることに起因する。方解石はCO2を含んだ弱酸性水に溶ける(CaCO3+CO2+H2O→Ca2++2HCO3-)ので,黒色ガウジで方解石が減少している原因はCO2を含む熱水流体が通過した可能性が指摘される。この場合,結晶から溶け出たMn2+イオンは酸素と結びついてMnOを形成するが,その後の断層摩擦熱により酸化が進むと,黒色で常温では常磁性のMn3O4が生成される。低FMR信号強度のガウジ帯が黒色化している原因はMn3O4である可能性がある。

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© 2008 日本地球化学会
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