日本地球化学会年会要旨集
2008年度日本地球化学会第55回年会講演要旨集
セッションID: 1A07 21-07
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地球外および海底系熱水系有機物と生命の起源
最古の生態系はどのような熱水系で繁栄したか:ウルトラエッチキューブリンケージ仮説
*高井 研
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抄録

「熱水環境が地球生命誕生の場であった」とする仮説は、20 世紀の様々な分野の科学分野的成果に基づく大仮説であった。その最も基幹的な根拠は、微生物進化系統学の成果であり、微生物系統学の始まりとなったWoese の論文において、すでに最古の生物は深海底熱水活動域や温泉に生育する好熱性古細菌であることが示唆されている。現時点においても、現存する生物の共通祖先(Last Universal Common Ancestor; LUCA)がどのような遺伝メカニズムを有していたかについて論争が続いており、決定的な結論はでていないが、原始生命が好熱性生命として誕生したことを支持する研究例が圧涛Iに多い。また化学進化の面からは、深海底熱水活動域における熱水循環を模した実験系において、タンパク質や核酸の前駆体であるアミノ酸やヌクレオチドが無機合成され、高分子化することが確かめられている。一方地質学の分野においても、現存する微生物化石様構造の由来環境に対する古地質学的考察から、最古の微生物化石様構造が産出する古環境として、始生代における深海底熱水活動域の可能性が示唆されている。これら多分野からの研究成果によって、「熱水環境が地球生命誕生の場であった」とする仮説の大枠としての整合性は支持されていると言えよう。しかしながらこれらの研究は,分散した個々の研究とそれをつなげた抽象的な概念としてのものでしかなく,諸過程の物理・化学・生物学的な解明とそれらのリンケージの明確な証明が行われる段階ではなかった.地球における生命の起源とそれに続く初期進化の舞台を考える上で重要な条件は、生命を誕生させやすい場であること以上に生命活動を持続させうる場であるという点である。つまり、生命が誕生してもすぐに死に絶えるような場や状況では、40 億年も続く地球と生命の共進化を導くことはできないであろう。誕生と同時に持続可能な生命活動が機能するメカニズムが必要となる。どのような熱水環境において、どのようなメカニズムで、どのような持続可能な初期生命のエコシステム(生態系)が形成されたのか?その最も確からしいストーリーとして、我々はウルトラエッチキューブリンケージ仮説を提唱した。ウルトラエッチキューブリンケージとは、Ultramafics-Hydrothermalsism-Hydrogenesis-HyperSLiME リンケージの略(UltraH3)である。日本語に訳すと超マフィック岩*̶熱水活動̶水素生成̶ハイパースライム連鎖である。この仮説を簡単に説明すると、「およそ40 億年前の海洋底には、熱いマントルと激しいマントル対流によって生じる超マフィック岩質マグマ(コマチアイト)を母体とする海底熱水活動が多数存在していた。このような深海熱水活動域では、地球内部エネルギーによって駆動される高温の海水‐岩石反応に伴って大量の水素が海底に供給され、超好熱水素酸化メタン菌を一次生産者とする化学合成微生物生態系を誕生させ、持続させた」ということになる。本発表では、このウルトラエッチキューブリンケージ仮説の提案に至る背景及び内容について紹介したい。

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