2019 年 125 巻 12 号 p. 853-865
低温で安定な炭酸塩鉱物であるイカアイトが,日本海東縁部で採取した堆積物コアから発見された.イカアイトを伴う堆積物は,シルトか砂の葉理を伴う暗色の泥からなり,生痕があるか無構造である.粒状の集合体が脈となっている場合と,最大10cmを越える長さの大型の結晶をなす場合がある.イカアイトは現在の海底面下10mより浅い部分で発見されているが,間隙水の分析から,硫酸塩・メタン漸移帯(SMT)の内部,多分2mから5m程度の深さで形成されたと考えるのが妥当である.イカアイトの炭素同位体比の分析値からは,微生物によるメタン酸化に起源をもつ軽い炭素の影響が,今回発見されたイカアイトにあったことを示唆し,SMT内で形成されたことと矛盾しない.イカアイトの最新の形成年代は9,700年前以降である.大型結晶のイカアイトは,メタン流量が増大するか,70m程度埋没することで地温が上昇して不安定となり,方解石に交代され,玄能石になるだろう.