2019 年 125 巻 4 号 p. 263-278
愛知県本宮山地域の領家変成帯の11地点の紅柱石を含む泥質変成岩およびメタチャート泥質部から十字石を見出した.十字石は,泥質変成岩では紅柱石や「雲母-石英集合体」の包有物として産するのに対して,メタチャート泥質部では「雲母-石英集合体」内の包有物のほかに,基質鉱物と接する斑状変晶としても産する.偏光顕微鏡による観察から,「雲母-石英集合体」は広域変成作用のプログレード期に仮像化した十字石を起源としていると解釈した.地域内の「雲母-石英集合体」の分布から,十字石は広く生成されたと考えられる.その後ピーク変成時までに,十字石が安定に存在した岩石と不安定になった岩石があった.十字石を含む鉱物組み合わせの岩石に対して,熱力学的計算による検討を行った.本研究地域の十字石の安定性の違いは(したがって産状の違いは),構成鉱物の化学組成の違い(特に黒雲母中のTiおよび十字石中のZn含有量)によって説明できる.