2020 年 126 巻 8 号 p. 443-458
本総説の目的は,地中に埋められた殺人事件の被害者の遺体,あるいはテロリストや犯罪者の秘匿物などの位置を特定するための探査モデルである法地質学的探査戦略(GSS)を,日本の法地質学者や事件捜査の関係者に紹介することである.GSSは,鉱物探査や応用地質,地盤調査,従来の犯罪捜査における捜索法を融合させたもので,25年以上にわたって開発と改善が行われており,法地質学的な地中探査に高い信頼性を与えている.GSSは,地質学的情報や現地の予備調査に基づいて探査方法を選定し,捜査関係者の活動を補助する上での法地質学者の役割を明確にする「プレ探査フェーズ」,標準作業手順書(SOP)に基づき探査を実施する「探査フェーズ」,発見物に証拠能力を付与するための手続きに則って回収を行う「ポスト探査フェーズ」の3つに大別される.GSSは地中探査活動の枠組みを与えるものであり,個別の事案に応じて方法を選ぶことができる.