地質学雑誌
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敦煌莫高窟(千仏洞)の活断層
林 愛明楊 提宇孫 知明楊 天水
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2000 年 106 巻 5 号 p. IXI-X

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抄録

莫高窟(千仏洞ともいう)は中国北西部の甘粛省敦煌市の南東部に位置しており(第1図), 秦の時代(紀元366年)から元の時代までの約千年にわたって, 総面積45,000m2の彩色壁画と大小2,000体以上の彫刻仏像が莫高窟の492個の洞窟の中に造り上げられてきた. これらの洞窟は阿尓金断層帯(Altyn Tagh Fault Zone)の敦煌-安西断層の活断層崖の上に造られており(第1, 2図), 総延長1.6kmの洞窟壁崖になっている(第3, 4図). 阿尓金断層帯は, 最大で30mm/年の水平変位速度と0.8mm/年の垂直変位速度を有する左横ずれ活断層であると推定されている(Xu and Deng, 1996). 敦煌-安西断層については, その変位速度や累積変位量などがまだ不明である. 莫高窟周辺地域の地質は先中生代の貫入岩と先カンブリアの変成岩からなる基盤岩とそれを覆う更新世の弱固結の砂礫層・粘土層・砂層の互層および沖積層から構成される(第1, 5図). 莫高窟はシルク・ロードの仏教芸術博物館として古代社会の研究に貴重な資料を与えており, 世界遺産に指定されているが, 砂漠化や壁崖の風化が進んでおり, 莫高窟の保存・修復が最重要な課題になっている. 莫高窟の地質構造や活断層の活動度などを明らかにすることは阿尓金断層帯全体の活動性・累積変位量の解明や莫高窟の研究・保存(耐震対策)などに基礎資料を提供することができると期待される。本研究は中国地質科学院地質力学研究所・地質力学開放研究実験室の科学研究費により行われた.

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