日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
原著
高齢者における急性消化管出血とその問題点
木村 明裕岩本 俊彦
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2009 年 46 巻 3 号 p. 250-258

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抄録

目的:高齢者における急性消化管出血の問題点を明らかにすること.方法:下血,吐血,急性貧血症状で入院した急性消化管出血の高齢者(連続85例)を対象として緊急内視鏡検査および臨床像に基づき,その出血源,出血原因を解析した.結果:対象は年齢66∼95歳,男40例で,78例が慢性期脳梗塞,骨·関節疾患,心房細動,認知症などの基礎疾患を複数有し,潰瘍の既往も10例あった.75例には何らかの薬剤(平均5.3種類の薬剤)が処方されていた.初発症状は下血49例,吐血18例,急性貧血症状18例で,得られた緊急内視鏡所見(n=83)より出血源は胃·十二指腸潰瘍,食道炎·AGML,大腸憩室,癌が各々43.4%,13.2%,16.9%,16.9%あった.全体の64.7%にはNSAIDsもしくは抗血栓薬が処方されていた.特に,低用量aspirin,NSAIDsは潰瘍例の三分の二を占め,血栓症の予防や骨·関節疾患,感冒などの対症療法に用いられていた.一方,抗血栓薬は長期に処方され,出血源は多彩であった.その他,steroid,抗認知症薬,SSRI,bisphosphonateの処方例,PPI併用例は各々5例,9例,3例,3例,8例あったが,いずれもNSAIDsや抗血栓薬との併用例も少なくなかった.消化管出血のために抗血栓薬を中断した38例のうちの3例に脳梗塞が発症した.結論:高齢者では基礎疾患に対して複数の治療·予防薬が長期に処方されるようになり,これにNSAIDsが上乗せされる多剤服用例で消化管出血が多かった.この点で,NSAIDsや抗血栓薬の処方は既往歴,薬物歴,特に,今後の高齢者医療で汎用される抗認知症薬,SSRI,bisphosphonateについては十分に検討してから慎重に行うべきである.

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© 2009 一般社団法人 日本老年医学会
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