日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
症例報告
サイアザイドによる降圧加療により意識障害を伴う低ナトリウム血症で緊急入院した2症例
竹下 雅子宮尾 益理子水野 有三
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2010 年 47 巻 3 号 p. 257-261

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抄録

我が国は食塩感受性高血圧が多く臓器障害の危険が高い.治療は減塩,レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(以下RASと略す)の抑制,利尿薬で,近年サイアザイド/アンジオテンシンII受容体拮抗薬(以下ARBと略す)合剤の使用が増している.特に高齢者の有用性が高まるが,このたび降圧加療で利尿薬内服中,意識障害を伴う低Na血症で入院した2例を経験した.
症例1は78歳女性.サイアザイド/ARB合剤内服開始2カ月後,嘔吐・腹痛で受診しNa 118 mEq/Lで入院.臨床所見上脱水があったが,検査所見で尿中Na排泄亢進,レニン値正常,アルドステロン低値とRASの賦活はなく,低浸透圧血症にもかかわらず高張尿,ADHの相対的分泌亢進を認め,Mineralcorticoid responsive hyponatremia of elderly(以下MRHEと略す)様の病態が認められた.利尿薬中止18日後Na 139 mEq/Lに改善するもADHの相対的分泌亢進は残存し,K 5.0 mEq/L,TTKG 3.5と遠位尿細管のmineralcorticoid作用低下は残存した.症例2は64歳女性.サイアザイド系類似利尿薬内服開始1カ月後,嘔吐・下痢で受診しNa 111 mEq/Lで入院.検査・臨床所見上症例1同様MRHE様病態を認め,同薬中止後等張輸液で治療したが低Na血症が遷延し,2%高張食塩水で加療.21日後Na 149に改善したがADHの相対的な分泌亢進と遠位尿細管機能低下は残存した.
高齢者低Na血症の原因の一つにMRHEという病態が提唱され,遠位尿細管障害が一因とされている.このたび経験した2例ともかねてより遠位尿細管機能障害があったと考えられ,このような病態下での利尿薬投与は意識障害を伴う程の低Na血症に至る可能性があり注意が必要と考えられた.

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© 2010 一般社団法人 日本老年医学会
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