日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
原著
介護老人保健施設の緩和ケアを受けた重度認知症高齢者の予後関連因子について
坂井 敬三増田 靖彦宮西 邦夫
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2016 年 53 巻 4 号 p. 404-411

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抄録

目的:介護老人保健施設(老健)を利用する重度認知症高齢者(重度認知症者)の緩和ケアの導入には施設ケアアセスメントが不可欠であるが,その諸因子と予後に関する研究報告は皆無に近い.本研究は認知症者の入所時諸因子のうち予後関連因子を明らかにすることである.方法:緩和ケアを望む当老健に入所した重度認知症者177名を対象とした.諸因子として,基本情報(年齢85歳以上,性別男性,要介護5,入院歴),生活動作機能(ADL:食事摂取,着座,語彙,車椅子移動,排便),合併症(3カ月以内の肺炎歴:肺炎歴,BMI<18.5,低アルブミン血症:Alb<3.5 g/dl),慢性腎臓病:ステージ3以上,うっ血性心不全)をあげ,これらの該当状況別に,3・6・9・12カ月毎の死亡率などとの関連を検討した.緩和ケアの内容は,本人・代理人へのインフォームド・コンセントを踏まえた嗜好,嚥下能力,病状などを評価した療養食,合併症の予防,管理,早期診断・内服治療などの多職種協働による包括的施設ケアである.結果:①「経口食自己摂取不能(経口食全介助)」および「低アルブミン血症」のそれぞれの該当群は非該当群に比し,すべての3カ月毎の死亡率が有意に高かった.②「肺炎歴」群の死亡率と「経口食全介助」群および「低アルブミン血症」群との死亡率が有意の関係を示した.③「経口食全介助」と「低アルブミン血症」の2因子の該当状況の3群化による経時的死亡率は「2因子該当」群>「いずれか1因子該当」群>「2因子非該当」群となり,これらの関係に有意を認めた.結論:諸因子のうち「経口食全介助」と「低アルブミン血症」が重度認知症者に対する予後関連因子と思われ,この2因子の保有状況が予後予測尺度になる可能性が示唆された.

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© 2016 一般社団法人 日本老年医学会
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