2017 年 54 巻 2 号 p. 165-171
われわれは,療養者が情報発信の中心となる「Patient-Centricity」というコンセプトを有するクラウド型在宅医療情報共有システム(電子連絡ノート・システム)を独自に作成した.このシステムが在宅医療における療養者と医療介護職(多職種)間の連携に及ぼす効果と課題について検討するため,療養者が散在しアクセスが容易でない中山間地域で実証実験を行ったので報告する.
人口15,732人,高齢化率34.8%,総面積の83%が森林で占められている中山間地域で,7医療施設の多職種18名と,療養者9名が実証実験に参加した.
電子連絡ノート・システムは療養者と多職種を個別に紐付けするシステムで,二つのアプリケーションから構成されている.一つは療養者自身が主体となって日々の健康情報を発信するための「電子連絡ノート」であり,もう一つは多職種が担当する療養者の情報を共有し閲覧・応答するための「ケアサポ」である.これらをプレインストールしたiPadⓇを療養者と多職種に配布し,54日間の入力件数,入力内容を検討した.
その結果,療養者からの入力は全体の61.6%で一番多く,ついで訪問看護師からは19.9%であったのに対し,医師からの入力は0.7%であった.高要介護度群の療養者と多職種からの合計入力件数は低要介護度群のそれに比べ有意に多かった.
療養者を情報発信の中心とするクラウド型在宅医療情報共有システムは,療養者には日々の状態をいつでも伝えられる安心感を,多職種には訪問前に療養者の健康情報を把握できる安心感をもたらした.また,その入力件数は多くの医療職が関与している高要介護度群に有意に多かった.