日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
原著
認知機能障害をもつ高齢者の社会的包摂の実現に向けた農業ケアの開発;稲作を中心としたプログラムのフィージビリティの検討
宇良 千秋岡村 毅山崎 幸子石黒 太一井部 真澄宮﨑 眞也子鳥島 佳祐川室 優
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2018 年 55 巻 1 号 p. 106-116

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抄録

目的:本研究の目的は,稲作を中心とした農業ケア・プログラムが認知機能障害をもつ高齢者の社会的包摂を実現するためのプログラムとして実行可能性があるかどうかを検証することである.方法:新潟県内の病院に入院・通院している認知症および軽度認知障害をもつ高齢者8名(男性7名,女性1名,平均年齢68.3歳)を対象に,週1回90分,計25回の稲作を中心とした農作業のプログラムを行った.プログラムの実行可能性を検討するために,プログラム期間中の観察により対象者の作業の安全性と自立度を評価し,プログラムの実施前と終了時に認知機能と精神的健康(well-being,うつ)を評価した.また,プログラム終了時に対象者および施設職員に聞き取り調査を実施し,プログラムによる社会参加や感情への影響を評価した.結果:プログラムの平均参加率は93.0%で脱落者はいなかった.事故はなく,対象者はおおむね自立して作業ができた.プログラム実施前には精神的健康不良またはうつ疑いに該当する者が2名いたが,参加後にはいずれも該当する者はいなかった.プログラム終了時に実施した対象者および施設職員への聞き取り調査の回答からは,プログラムへの参加によって,対象者に仲間意識や役割意識,ポジティブな感情が生じたことが示唆された.また,施設職員の発言からは,プログラムによって対象者が社会参加の機会を得られたことや,本来対象者がもっている能力や資源が引き出されたことがうかがわれた.結論:稲作を中心とした農業ケア・プログラムは,認知機能障害をもつ高齢者の社会参加を促し,精神的健康やうつを改善させるプログラムとして実行可能であることが確認できた.また,対象者が本来もっている能力や資源が引き出される可能性のあるプログラムでもある.今後は対象者の数を増やして,より質の高い研究デザインで効果を検証する必要がある.

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© 2018 一般社団法人 日本老年医学会
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