日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
原著
アルツハイマー病における病期別記銘・保持能力の検討
佐藤 光信米澤 久司工藤 雅子柴田 俊秀小原 智子鈴木 真紗子石塚 直樹高橋 純子寺山 靖夫
著者情報
ジャーナル フリー

2019 年 56 巻 3 号 p. 273-282

詳細
抄録

目的:記憶の過程として,記銘,保持,想起の3段階があることが知られている.記憶障害の進行が症状の主体であるアルツハイマー病(AD)患者において,どの段階まで記銘・保持が保たれているか神経心理学的検査を用い検討する.方法:Amnestic MCI群(MCI)(21例)とAD群のFAST 4(37例),5(10例),6(4例)の患者を対象とした.神経心理学的検査としてリバーミード行動記憶検査,改訂版ウェクスラー記憶検査を施行した.これら2つの検査の下位項目は評価する内容により遅延再生,遅延再認に分類することができ,遅延再生はさらに,ヒントなしに想起する自由再生とヒントを手がかりに想起する手がかり再生に分類した.MCIおよび各病期のAD群において,上記の心理学的検査を行い,病期ごとの遅延再生(自由再生,手がかり再生)と遅延再認の下位項目粗点を検討した.結果:自由再生を評価する下位項目では,MCIの時期から多くの症例で得点できず(中央値0点),FAST 4以降ではほとんどの症例で得点できなかった.手がかり再生を評価する言語性対連合IIの粗点はMCI群に比し,FAST 4,5群で有意に低下していたが,FAST 3で90%,FAST 4で51%,FAST 5で60%,FAST 6で50%の症例が得点できていた.遅延再認の課題である視覚性対連合IIは,MCI群とFAST 4,5,6群では有意差がみられなかった.同じく遅延再認の課題である絵,顔写真ではMCI群と比してFAST 4,5群では有意差は認めず,MCI群で100%,FAST 4,5群では約60~70%の症例で得点できていた.結論:再認課題や手がかり再生の課題はFAST 4,5群でも得点することが可能であった.記銘・保持が障害されている場合には想起は不可能であることを考えると中等度に進行したADにおいても記銘・保持能力は残存していることが推測された.

著者関連情報
© 2019 一般社団法人 日本老年医学会
前の記事 次の記事
feedback
Top