日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
老年医学の展望
高齢者生活支援ロボットの現状
尾﨑 文夫
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2020 年 57 巻 3 号 p. 224-235

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抄録

6年前に「高齢者生活支援ロボットの研究現状調査」(湘南工科大学紀要)をまとめてから現在の間に,人工知能技術の大きな進展によりロボットの画像処理技術やヒューマンインタラクション技術などにおいて出来ることが飛躍的に増している.本論文では前論文以降に研究開発あるいは商品化されたロボットの動向を調査し,まとめた.その結果,技術的には大きな進展がありつつも実用化としてはなかなか期待通り普及しているとまでは至っていないことを実感した.

その中で装着型のマッスルスーツやHALなどのパワーアシスト型のロボットは実際に市場に投入され,高齢者生活支援に限らず使われ始めている.高齢者の場合,弱くなった筋力をこのようなデバイスで補うことが出来れば活動範囲を広げることが出来,より活発な生活を送ることが期待できる.

また特に海外ではテレプレゼンスを利用し,高齢者と他の人との交流の機会を増やすロボットも増えている.遠隔地にロボットを置き,遠くにいる家族や友人とのコミュニケーションをロボットを通して行うことにより,高齢者を支援する.これらのロボットは顔の部分に操作者を表示するためのディスプレイがあり,足回りに車輪を配して移動が可能となっている.遠隔から手動あるいは自動で操作して遠隔地の建物内でロボットを移動させ,話し相手のところまで誘導する.カメラに映った相手の顔を見ながらユーザは相手と話が出来,また相手はロボットのディスプレイに映るユーザに対して話しかける.

それ以外ではペット代わりになるロボットが普及を目指して精力的に開発されている.

パワーアシストやテレプレゼンスのロボットはどちらも人が操作することで周囲環境の認識を人が受け持ち,ロボットが確実に動くということから実用化されてきたのだと考えられる.またペットロボットも人間に身を委ねることによりロボットが積極的に動き回ることなく人間の動作に対して様々に反応することで難しい認識を回避しつつ癒しを与える効果を得ている.

ディープラーニングなどのAIを利用した認識技術が進み,それを利用したロボットが出てきつつある.従来,周囲認識が十分でなく実用性に乏しかったロボットがAIの力を得てどこまで実用化出来るか,今後の研究に期待したい.

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