日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
原著
インスリン使用中の高齢糖尿病者における注射手技の実態と療養指導の効果
石田 一美福田 満里子近藤 孝朗山口 洋子朝日 美穂相川 智優紀松井 ひろみ若林 祐介中屋 雅子大家 理恵
著者情報
ジャーナル フリー

2020 年 57 巻 3 号 p. 282-290

詳細
抄録

目的:糖尿病患者の寿命延伸によりインスリンを使用する高齢患者が自己注射を続けるためのサポートが求められている.本研究は1)インスリン注射を行う高齢者の自己注射手技の実態を明らかにすること,2)看護師の療養指導により注射手技が向上するかを検証することを目的とした.対象と方法:日本糖尿病学会認定教育施設の外来通院患者を対象とした.基本的臨床情報,Mini-Cogによる認知機能検査,基本的ADL及び手段的ADL,さらに24項目からなる自己注射手技を看護師が対面式で調査した.その後外来で30分間の対面式個別指導を2回以上行った後,注射手技を再度評価した.結果:研究対象者63名のうち,研究開始時点で10名が他者の介助を受けて自己注射を行っていた(以下介助注射群).自己注射群の年齢中央値は72歳,介助注射群では82歳と,後者の方が高齢で,女性比率が高く,Mini-Cog及びADL指標が低く(p<0.05),両群ともインスリン使用歴中央値は10年を超えていた.自己注射群においては,注射手技習熟度は介入前後で有意に向上した(p<0.05).もっとも大きな改善を示したのは「ずらし打ちの必要性を知っているか」であり,2倍に向上した(p<0.05).「製剤名を知っているか」についての正答率は半数に満たず指導後も不変であった.介助注射群は90%がMini-Cog 2点以下であったが,単位合わせを介助者が行い注射行為だけは患者本人が分担している者が6人(60%)あった.結論:看護師による療養指導によって高齢者においても有意に自己注射手技が向上することが示され,改善効果が高かった項目はずらし打ちの必要性についての知識であった.認知症があり介助を受ける高齢者においても,過去に獲得した手続き記憶に頼って注射手技の一部を分担している実態を明らかにすることができた.

著者関連情報
© 2020 一般社団法人 日本老年医学会
前の記事 次の記事
feedback
Top