日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
症例報告
診断に時間を要した高齢者の甲状腺クリーゼの1例
桝田 志保吉田 守美子工藤 千晶辻本 賀美安井 沙耶遠藤 ふうり三井 由加里倉橋 清衛遠藤 逸朗轟 貴史安倍 正博
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2021 年 58 巻 1 号 p. 158-163

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抄録

甲状腺クリーゼは致死的かつ緊急疾患であるが,他疾患に起因する症状と区別がつきにくいことや,高齢者では典型的クリーゼ症状を呈さない場合があり,診断は容易ではない.今回,消化器症状で発症し,心房細動と心不全の加療中に,甲状腺クリーゼと未治療バセドウ病の診断に至った症例を経験したので報告する.症例は70歳の女性.甲状腺疾患の既往はなく,多発筋炎でプレドニゾロン服用中であった.X月中頃より下痢・嘔吐が出現し,徐々に増悪し,労作時呼吸困難も出現した.X+1月8日に嘔気と倦怠感のため消化器内科に入院し,脱水に対して補液を行った.さらに消化器症状,発熱,呼吸困難の症状が悪化し,入院4日目にうっ血性心不全,頻脈性心房細動の診断で循環器内科において利尿薬を中心とした治療が開始された.入院7日目にFT4 9.95 ng/dL,FT3 >30 pg/mL,TSH <0.01 μU/mLとTSH抑制を伴う甲状腺ホルモン過剰が判明し,内分泌代謝内科へ紹介された.TRAb 22.6 IU/Lと上昇がありバセドウ病と診断するとともに,不穏,39℃の発熱,140回/分以上の頻脈,肺水腫,頻回な下痢を認め,確実な甲状腺クリーゼの状態であった.チアマゾール,ヨウ化カリウム,ヒドロコルチゾン,ランジオロールなどによる甲状腺クリーゼの包括的治療を行い,後遺症を残すことなく救命できた.甲状腺ホルモンの低下とともに,心不全診断時に認めた左室壁の局所運動異常と心電図のST-T変化は改善し,たこつぼ型心筋症も合併していたと考えられた.後の検査で入院時から甲状腺中毒症が存在し,すでに甲状腺クリーゼの状態であったことが判明した.本症例は,入院時に高熱や多動などの意識障害を呈さず,倦怠感が目立ち,基礎疾患や服用薬の影響など診断を困難にする要因が重なり,甲状腺クリーゼの診断までに時間を要したと考えられた.

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