日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
糖尿病患者の血小板機能異常
北沢 明人
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1982 年 19 巻 2 号 p. 175-182

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抄録

糖尿病患者317例および健常者82例を対象に, 血小板粘着能, ADPによる血小板凝集能および血漿β-thromboglobulin (以下βTGと略す) 濃度を測定し, 糖尿病患者における血小板機能の加齢による変化を明らかにするとともに, 糖尿病性血管障害進展因子としての血小板の役割を検討した. その結果, (1) 血小板凝集能の加齢による変化は, 健常者では明らかでなかったが, 糖尿病患者では加齢とともに亢進する傾向がみられた. (2) 血漿βTG濃度は, 健常者では加齢とともに高値を示したが, 糖尿病患者では若年群において既に健常者老年群に匹敵する高値を示し, 加齢による増加はみられなかった. (3) 血小板凝集能の亢進は, 糖尿病性網膜症合併群において明らかに認められ, 網膜症非合併群では健常者と有意差を示さなかった. (4)血漿βTG濃度の増加は, 糖尿病性網膜症の有無にかかわらず認められた. (5) 糖尿病患者の血小板凝集能および血漿βTG濃度は, 糖尿病治療方法, 血糖コントロール状態あるいは糖尿病性網膜症の重症度と関連を示さなかった. (6) 糖尿病患者未治療群では治療群に比べ, 最大凝集率が低値であるにもかかわらず血漿βTG濃度は高値を示した. (7) 糖尿病罹病期間が長い程, 最大凝集率は高値をとる傾向を示したが, 血漿βTG濃度は罹病期間の短い群で高値を示した. (8) 血小板粘着能はばらつきが大きく, 健常者と糖尿病患者で差は認められず, 加齢との関係もみられなかった.
すなわち, 血小板凝集能の亢進と血漿βTG濃度の増加は平行関係を示さなかった. 血漿βTG濃度の増加が若年群において既にみられ, 罹病期間の短い群にむしろ著しく, 網膜症の有無や血糖コントロール状態に無関係であったことは, この現象が血管障害による単なる二次的な現象ではないことを示すものであり, 血管障害進展に果す役割が注目される.

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