抄録
最近, 当内視鏡科で経験した進行胃癌, 早期癌の計445例を, 筆者の一人大島がベルリン自由大学で経験した176例の胃癌と比較し, 日独の60歳以上の老年者胃癌について検討した.
進行胃癌全例のうち老年者の占める割合は当科で55.3%, 西ベルリン78.5%, また老年者早期胃癌も当科34.6%, ドイツ例60.7%で, ドイツの老年者胃癌の頻度は日本のそれより明らかに高い. 当科の老年者胃癌には男性例が多いが, ドイツ例では60歳代より70歳以上へと男女比が低下し, 70歳以上では1.0:1となる. これらは老年人口の多寡, 人口構成と関連していよう.
進行胃癌を肉眼型別にみると, 当科の老年者, ことに70歳以上では Borrmann 1, 2型の和が増加し, 3, 4型が減少する傾向にある. しかし, 西ベルリンの症例にはその様な傾向はみられず, 老年者においても Borrmann 3, 4型が余り減少しない. それらは進行胃癌の組織型分類上の頻度ともよく類似し, 当科の症例では乳頭腺癌, 管状腺癌の和は60歳代から70歳以上へと漸次増加するが, ドイツ例では様相が異なる. ドイツ例の方が当科の症例より癌病巣の大きいものが多い. 内視鏡的萎縮性胃炎像はドイツ例より当科の胃癌症例の方に明らかに多く認められる. 日本の老年者胃癌の性状には分化型癌が, またドイツのそれには未分化型癌が少なからず関与しているものと考えられる.