1989 年 26 巻 6 号 p. 638-643
小腸に限局し, 腸管外瘻孔および腫瘤形成をきたした老年者クローン病の1例を報告し, 本邦報告例の文献的考察を加えた. 患者は, 62歳の女性で腹痛, 発熱, 下痢を主訴に入院した. 理学的には左下腹部に圧痛を認め鵞卵大の腫瘤を触知した. 血沈は1時間値65mmと亢進し, CRPは3+であった. 生化学検査は, 総蛋白, アルブミン, 総コレステロールの低下がみられ, Hb 7.8g/dlと貧血を認めた. また末梢血の免疫学的検査では, OKT3は69.2%であったが, OKT4/8比は0.88と低値を示し, OKIalは44.9%, OKMlは41.9%と高値であった. 小腸二重造影では, 病変部の空腸に狭少化, 壁不整があり2カ所にバリウムの腸管外への漏出を認め, 腸管外瘻孔と診断した. 上腸間膜動脈造影では, 空腸動脈は狭窄, 壁不整を認めたが, 異常血管増生, 造影剤貯留は認めなかった. 手術が施行され, トライツ靱帯より70cmの空腸は瘻孔形成部を含め一塊の腫瘤を形成し, バウヒン弁より20cmの回腸末端部にも約40cmの範囲に腸管の肥厚がみられ, 周囲のリンパ節も腫大していた. 各々40cm, 60cm腸切除した. 組織学的には, 散在する非乾酪肉芽腫内に巨細胞を認めクローン病と診断した. 日本では現在までに老年者クローン病は13例が報告されている. 日本での老年者クローン病は, 1) 臨床症状や画像診断では若年者と差はない. 2) 小腸病変が多い (54%). 3) 手術施行例は, 46%であった. 4) 老年者は若年者に比し診断が遅れ, 重篤になりやすい. 5) 肛門病変を認めない. などの特徴がみられた.
老年者であってもクローン病の存在の可能性を常に念頭に置いて的確に診断し, 治療を行う必要があると考えられた.