高齢者では脳疾患以外の種々の要因が間接的に脳機能に影響を与えるとされている. そこで身体的・精神的に大きな侵襲となる大腿骨頸部骨折が高齢者の脳機能に与える影響を調べるため, 骨折前後の脳波を比較し併せて骨折後の歩行能力との関係についても検討した.
対象は浴風会病院で大腿骨頸部骨折の観血的治療ならびにリハビリテーションを実施した70歳以上の骨折前独歩可能であった症例中, 骨折前・骨折直後 (1カ月以内) の脳波記録のある23例 (年齢74~95歳, 平均83.7歳) である. 脳波は徐波の量を中心に肉眼的に3段階 (正常, 軽度異常, 中等度~高度異常) に判定し, 歩行能力は独歩可能か否かで2群に分類した.
骨折後独歩可能群 (11例) では骨折前後とも9例が正常または軽度異常までの脳波を示したのに対し, 独歩不能群 (12例) では骨折前7例が正常または軽度異常, 5例が中等度異常を示したが, 骨折直後に正常, 軽度異常にとどまったのは2例のみで, 残る10例は中等度異常以上の異常脳波を示した.
以上より, 高齢者に身体的・精神的侵襲が加わった場合の反応には, 適切な治療等によりそれ以前の状態をほぼ維持しうる例と, それを契機に脳機能の低下, さらには身体機能の低下を来す例の2通りに大別しうると推察された.