30 巻 (1993) 9 号 p. 807-816
目的: 主要臓器の動脈硬化 (冠動脈, 大動脈, 末梢動脈, 脳動脈) は必ずしも平行して進展するものではないことが知られているが, その詳細は明らかでない. そこで動脈硬化度の指標として冠動脈造影 (coronary angiography; CAG), 脈波速度 (pulse wave velocity; PWV) の計測, 眼底撮影, 足関節血圧/上腕血圧比 (ankle pressure index; API) の測定を用い, 生体におけるこれら各臓器の動脈硬化度を同時に定量しその相対的評価を行った.
方法: CAGを受けた43~69歳までの94例を対象としPWV, APIの測定及び眼底所見 (Scheie 分類) の評価を行った. 冠動脈硬化度はCAI (冠動脈硬化指数) を用いて評価し, 眼底動脈硬化度は S-factor と H-factor の和 (S+H) を用いた. 各臓器の動脈硬化度と年齢, 肥満, 喫煙, 高血圧, 血清脂質, 耐糖能異常との関連を検討した. さらに対象を正常群または初期変化群と硬化群の2群に分類し, 同一個体における動脈硬化度の臓器別差異を検討した.
成績: I. 各臓器動脈硬化の指標と危険因子の関係を検討すると, 加齢に伴いPWV, API, S+Hは進展し (p<0.05, p<0.01), 高血圧合併頻度はPWV, API硬化群において有意に高率であった (p<0.05). T-Chol はCAI正常群に比し硬化群で有意に高く (p<0.005), PWV, APIの進展に伴い高値となった (p<0.001). またCAI正常群, S+H初期変化群に対する各硬化群のHDL-Cは有意に低く (p<0.05, p<0.01), PWV, API進展に伴い低値となった (p<0.05, p<0.02). さらに耐糖能の悪化に伴いCAI, PWV, API, S+Hは進展がみられた.
II. 限定した年齢層 (55~64歳) における動脈硬化進展度はCAI, PWV, API, S+Hの間において全ての組合わせで有意な相関を認めた.
III. CAI正常群, PWV, API, S+H初期変化群における他臓器硬化群の占める頻度を検討すると, CAI正常群やPWV初期変化群において, 他臓器硬化群の占める頻度の低下がみられた.
結論: 種々の動脈硬化危険因子が各臓器に及ぼす影響の差異ならびに各臓器動脈硬化の相互関係を生体において評価することが可能であることが明らかとなり, その臨床医学における意義が示唆された.