日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
痴呆性老人に対する老人施設の役割に関する研究
稲垣 俊明山本 俊幸吉田 達也橋詰 良夫稲垣 亜紀新美 達司小鹿 幸生
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1994 年 31 巻 11 号 p. 872-878

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抄録

1992年11月より1993年10月末までに, 名古屋市厚生院の特別養護老人ホーム (以下特養と略す) に入所した81例 (男20例, 女61例, 平均年齢81.4歳) について, 入所後1カ月以内に痴呆の診断を施行し, 痴呆例と非痴呆例に分類して実態調査を実施した. 痴呆の出現率は45.7%であり, 痴呆の程度は軽度32.4%, 中等度27.0%, 高度が40.6%であった. 老年者の総合的機能評価法を用いて痴呆との関係を検討したところ, 痴呆の程度は年齢と正の相関, HDS, ADL, 身体情報機能と負の相関を示した. さらに1993年11月中旬に入所時および入所後の身体疾患による入院の有無についても検討し, 以下の結果を得た.
1) 特養入所時の身体疾患〔()内は非痴呆例の成績〕について, 痴呆例では脳梗塞48.6% (20.5%), 脳の変性疾患は54.1% (2.3%) と非痴呆例に比し有意 (p<0.01) に高率であった. その他の疾患では心疾患, 高血圧症, 運動器疾患が高率にみられたが有意差はなかった. 特養入所時, 入所後に身体疾患により入院治療を必要とした症例では, 痴呆例は15例; 40.5% (10例; 22.7%) と高率な傾向 (p<0.1) がみられた.
2) 痴呆例の特養への入所経路について検討すると, 老人保健施設, 軽費老人ホーム, 養護老人ホーム, 老人病院等の老人施設からが86.5% (68.3%) と高率であり, 自宅からは5.4% (9.1%) と低率であった. 家族が今後の生活について最初に相談した機関は, 痴呆例では福祉事務所45.9% (43.2%), 特養入所前の施設の職員48.7% (50.0%), 民生委員5.4% (6.8%) であった.
以上より, 痴呆例に対する医療供給システムにおける特養の役割は, 痴呆例に対して身体疾患によく注意をしながら日常生活の介護をし, 医療, 保健, 福祉機関との連携が重要であると考えられた.

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