日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
老年者における日常生活状態 (QOL: ADL, HDS-R, GDSなど) と手術後のせん妄など異常行動について
橋本 肇山城 守也
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1994 年 31 巻 8 号 p. 633-638

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抄録

目的: 老年者の手術では術後に発生するせん妄が術後管理の面で大きな問題となっている. 今回身体状況, 日常生活状態, 視覚, 聴覚, 痴呆程度, 精神状態 (うつ), 社会活動, 家庭生活などの術前状態と術後のせん妄など異常行動との関係について検討した.
方法: 身体状況は疾患, 併存疾患, 視力, 聴力を4段階に評価した. 日常生活 (ADL) は食事, 用便,衣服の着脱, 洗面, 入浴, 起座, 歩行を総合し評価した. 痴呆は Clinical Dementia Rating (CDR), 改訂長谷川式簡易知能評価スケール (HDS-R) で評価した. うつは Geriatric Depression Scale (GDS) で評価した. 社会活動, 家庭生活は4段階評価した. 可能なものは自己評価とした. 術後せん妄は術後に異常な行動, 幻覚, 興奮, 失見当識, 不眠などを示し, 治療を必要としたものとした. 痴呆患者では術後の異常行為がせん妄によるか判定困難な症例もあったので「せん妄など異常行動」とし一括した.
症例: 1992~1993年に中等度以上の手術をし, 術後ICUに入室した. 160人 (男70人, 女90人, 平均年齢76.3±7.5歳) を対象とした.
結果: 術後せん妄など異常行動は52人 (32.5%) に見られた.
身体状況とせん妄など異常行動の頻度との関係では疾患の重症度, 視力との関係は見られず, ADLの低下, 聴力障害で有意な増加が見られた. 痴呆との関係ではその頻度はHDSRスコアと逆相関し, CDRの程度と相関していた. うつではGDSでうつ傾向のあるものでせん妄など異常行動が多く見られたが有意差ではなかった. 社会活動をするものでせん妄など異常行動は少ないが有意差ではなく, 家庭生活とは関係が見られなかった.
結論: 老年者ではADL, 知能, 聴力に障害ある患者で術後せん妄など異常行動が高頻度で見られた.

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