日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
テロメア・テロメラーゼ研究の最近の進歩
井出 利憲
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1998 年 35 巻 1 号 p. 10-17

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抄録

ヒト体細胞の分裂回数の限界 (分裂寿命) は胎児期にプログラムされていると考えられる. 複製機構のもつ基本的な性質のために, 直鎖DNAの末端にあるテロメアDNAが複製毎に約100bp程度ずつ短縮することが, 分裂寿命の絶対的な有限性を決める. 正常体細胞の分裂寿命の限界 (細胞老化) では増殖抑制遺伝子が構成的に発現昂進するために増殖がとまる. テロメア短縮 (分裂時計) からのシグナルによって, これらの遺伝子変化が起きるものと考えられる. テロメアNAの短縮にともなって, 増殖停止遺伝子だけではなく, 種々の機能遺伝子, たとえばサイトカインなどの活性ペプチドの発現も変化する. 生理的再生あるいは病理的原因 (障害修復など) によって, 体内の各種細胞の分裂回数が増加するにとともにテロメアDNAが短縮し, これがシグナルとなって, 構成細胞の増殖能力低下だけではなく, 機能遺伝子の発現変化が体内の細胞・組織・臓器に機能不全をもたらすことが, 個体の老化を進行させるものと思われる.
DNA癌ウイルスの癌遺伝子によるトランスフォーム細胞では, 分裂回数は延長する (延命) が, やがてほとんどすべて死滅する. テロメアDNAが限界まで短縮して染色体が不安定化するための死である. ヒト体細胞が無限分裂寿命になる (不死化する) ためには, テロメアDNAを延長するテロメラーゼの発現が不可欠である. 生殖巣では, テロメラーゼが発現しており, 無限分裂寿命を保証する. 胎生期にもテロメラーゼがあるが, 体細胞分化の段階でテロメラーゼの発現が抑制され, 分裂寿命がプログラムされると思われる. 成体でも増殖の幹細胞には弱いテロメラーゼ活性があってテロメア短縮を遅延させ, 生涯にわたる細胞供給を保証する. 大部分の癌組織には強いテロメラーゼ活性があることがわかったため, 癌診断と癌治療の新たなターゲットとして注目されている.

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